Heavy Metal

Cynic 来日決定

cynic

先月のバレンタインの日にネットで「Cynic来日決定」 のニュースを見つけて驚いた。 93年のデビュー以来これが初来日である。Cyclamenという日本のバンドが招致してくれたようだ。Twitterなどネット上では一部のマニアの間で大騒ぎになっていた。

とにかくデビューアルバム「Focus」はスゴかった。強烈なデスメタルと美しいフュージョンが超絶技巧の上で高次元で融合しており、後にプログレッシブデスメタルと呼ばれるジャンルの先駆けとなったアルバムだ。しかし彼らはこの1枚のみを残してあっけなく解散し伝説となっていた。

解散後メンバー達は様々なプロジェクトでの活動を経て再結成し、2008年に何と15年振りとなる2ndアルバムを発表する。その後もコンスタントにアルバムをリリースしており、今はもうデスメタルの要素は消えてしまったが、依然レベルの高いことをやっている。

最近のセットリストを見ると1stの曲も少しだけだが演っているようだ。しかもどうやらベース・スティックのSean Maroneも来るらしい。チケットも無事確保したのであと半年楽しみにしていよう。

Oct. 31. 2014 @ Circo Volador , Mexico City
1. Intro (Tubular Bells)
2. Veil of Maya 
3. Celestial Voyage 
4. Evolutionary Sleeper 
5. Adam's Murmur 
6. The Lion's Roar 
7. True Hallucination Speak 
8. Integral (Acoustic)
9. Carbon-Based Anatomy 
10.Elves Beam Out 
11.Gitanjali 
12.Kindly Bent to Free Us 
13.The Space for This 
 
 

Cathedral 「Statik Majik」 (1994)

Statik Majik / Soul Sacrifice
Cathedral
Earache
1999-12-06





1. Midnight Mountain
2. Hypnos 164
3. Cosmic Funeral
4. The Voyage Of The Homeless Sapien
5. Autumn Twilight
6. Frozen Rapture 
7. Golden Blood (Flooding) 
8. Grim Luxuria (Live)
9. Sweet Leaf (Live)

Probotつながりでもう1バンド、今週はLee DorrianのCathedral。他の面子がDave Grohlに音楽的影響を与えたという理由で招致されたのに対して、Leeの参加理由は少し違っていた。Daveが無名時代にイギリスをツアーしている時に、一晩泊めてくれたという理由だ。しかも氷のように冷たい床だったと語っている。そんなDaveに対して、Leeが付けた曲のタイトルが”Ice Cold Man”というのもイギリス的なユーモアたっぷりだった。

LeeがDaveに氷の床を貸してやったのは1988年の冬のこと。当時LeeはまだNapalm Deathに在籍していた。しかしProbotでLee用に用意された楽曲な明らかにドゥームなので、DaveはCathedralの音楽を後にしっかりチェックしていたのだろう。元々ドゥームが好きだったDaveだから、Leeがドゥームバンドを結成したと知った時はニヤっとしたに違いない。

Cathedralのアルバムでよく取り上げられるのは、暗黒の地下ドゥームな1st「Forest Of Equilibrium」か、怪しさを残しながらもメジャー感の出た2nd「The Ethereal Mirror」。どちらも文句ない傑作だが、今回はあえて94年の「Statik Majik」を取り上げたい。

このアルバムは主に2枚のEPをまとめた編集ものだが、1stと2ndの中間的な位置付けとなる重要な作品だと思う。リードトラックM1は2nd収録のファンキーに跳ねるリフとリズムが有名なナンバー。M2~M4は94年のEP「Cosmic Requiem」に収録されていたもの。22分の超大作M4は圧巻。M5~M7は92年のEP「Soul Sacrifice」に収録されていたもので、1stからの進化が聴きとれる。どれも正規アルバム曲に負けない出来映えだ。M8~M9は93年の日本公演音源。M9で咳払いまでするBlack Sabbathの完コピっぷりが微笑ましい。(ちなみに1999年の再発は曲目が若干違っている。)

この中で私が最も好きなのはM3。ゆっくりと沈み込んでいくような重くダークなリフと呪術的な咆哮が彼ら本来の持ち味を発揮している。また徐々にテンポアップしていく曲展開は、初期Sabbathが提示していた伝統的なドゥームの方法論である。

最近20年ぶりにBURRN!誌を買ってみて初めて知ったのだが、Leeは誌面に毎月コラムを執筆していたようで、そこで紹介するアルバムのマイナーっぷりに舌を巻いた。もう今となってはCathedralは解散してしまっているが、そんな彼の多彩でマニアックな音楽性の上に成り立っていたと思うと興味深い。

★★★★ 

 

Venom 「Welcome To Hell」 (1981)

Welcome to Hell
Venom
Edge J26181
2011-03-11


1. Sons Of Satan
2. Welcome To Hell
3. Schizoid
4. Mayhem With Mercy
5. Poison
6. Live Like An Angel
7. Witching Hour
8. One Thousand Days Of Sodom
9. Angel Dust
10. In League With Satan
11. Red Light Fever

先週のProbotの冒頭を飾っていたVenomのCronos。Dave Grohlは彼のことを「何かが乗り移ったようなボーカリスト」と評していた。今週はそのVenomを取り上げたい。

VenomはNWOBHMのムーブメントの中から飛び出してきた暗黒の帝王。アグレッシブなヘヴィリフと吐き捨てボーカルで猛突進していく様子は強烈なインパクトだ。ハードコア的な要素もあるがギターソロなどはHMだし、時折感じるR&RぽさはMotorheadを極端にデフォルメした印象も受ける。また緩急織り交ぜていたりアコギや女性の声が入っていたりと、実は意外によく練られてもいる。後のスラッシュメタル勢やハードコア勢などに多大な影響を与えたのも納得。

しかし彼らが異端なのはその徹底した悪魔主義にある。歌詞の内容やアートワーク、衣装やステージングなど思わず笑ってしまうほどだ。実際ここにはある種エンターテイメント的なものがあった訳だが、それは当時は演る側も観る側も分かって楽しんでいた。

しかしこれを間に受けてしまったのが90年代以降のブラックメタル勢だった。彼らはそれを実践すべく放火や殺人にまで手を染めた。はっきり言って私は殺人者の作る音楽など聞きたくないし、金も払いたくない。しかし悲しいことに世の中にはこれをもてはやす人が少なくなかった。そのため元祖であるVenomも「我々は音楽を通じて犯罪を奨励したことはない」という会見表明をせざる得なかった訳だ。

DaveはCronosのことをこうも言っていた。「俺はこの男が生肉を喰らっているのを見たことがある。」 むしろある意味こういう扱いが正しいのだと思う。

★★★★ 




 

Probot 「Probot」 (2004)

プロボット
プロボット
BMG JAPAN
2004-03-24


1. Centuries of Sin w/ Cronos (Venom) 
2. Red War w/ Max Cavalera (Sepultra, Soulfly)
3. Shake Your Blood w/ Lemmy (Motorhead)
4. Access Babylon w/ Mike Dean (COC)
5. Silent Spring w/ Kurt Brecht (DRI)
6. Ice Cold Man w/ Lee Dorrian (Cathedral)
7. The Emerald Law w/ Wino (Saint Vitus, The Obsessed, ect)
8. Big Sky w/ Tom G Warrior (Celtic Frost)
9. Dictatorsaurus w/ Snake (Voivod)
10. My Tortured Soul w/ Eric Wagner (Trouble)
11. Sweet Dreams w/ King Diamond (Mercyful Fate) 

活動休止していたFoo Fightersが昨年末に新作を出すのに伴い制作したというドキュメンタリーがWOWOWで放映されていたので見ていた。色々アメリカ音楽の歴史を俯瞰する内容で興味深かった。

私はそれほど熱心なFoo Fightersのファンではないが、Dave Grohlのことはスゴいと思っている。それは単に彼の演奏能力の高さとか、Nirvanaの消滅後にFoo Fightersでこれほど成功を収めたからというだけでなく、様々なサイドプロジェクトや映画の制作などにも見られるように音楽に対して常に純粋かつ誠実に向かい合い、それを持ち前のバイタリティによって見事に形にしてきたからである。

そんな彼の偉業の1つがこのProbotである。これは彼が4年がかりで制作したアンダーグラウンドメタル・ハードコアプロジェクトである。元々彼は80年代にScreamやMission Impossibleといったハードコアバンドで活動していた。その頃に彼が影響を受けた偉大な先達に対して敬意を表明するためにこのアルバムは作られている。

まずこれに参加している面子がスゴい。VenomのCronosをはじめ、MotorheadのLemmy、Celtic FrostのTom Warrior、Mercyful FateのKing Diamondなど、暗黒系メタルの重鎮たちが一同に介している。TroubleやSaint Vitus、Cathedralといったドゥーム勢の名前にも唸らされる。COCやDRIあたりのハードコア系はむしろ納得する一方で、それと一緒にメタル/ドゥーム系の大御所がこれだけ列挙したことは驚きだったが、そうしたクロスオーバーは80年代中期頃には自然なことだったのだろう。

そして並んでいる楽曲がまたスゴい。どれも各バンドの往年を彷彿とさせる傑作揃いなのだが、これらは全てDaveが1人で書いたものなのだ。単に昔好きでしたというレベルで書いたものでは全くなく、各バンド最盛期の未発表曲と言って通用するレベルである。しかも演奏もほとんど全て1人で全パートをやってしまっている。ドラムなんて曲によって叩き方も全く変えている。

特にお気に入りはM1、M2、M3、M4、M8。どれもブチ切れていて最高だ。また最後にシークレットトラックで暗黒系のトラックが入っているが、このボーカルは例のメタルコメディ俳優Jack Black。言われないと分からないが、これもカッコいい。またジャケットのアートワークを手掛けたのはVoivodのAway。

とにかくDaveとこのプロジェクトのために色んな面子が一肌脱いでいる。こんな夢のような宅録、楽しすぎだろう。願わくは全員集めて恐山あたりでフェスでもやってほしかったものだ。

★★★★☆

 

へヴィメタル名盤10選

先週のハードロック編に続いて今週はヘヴィメタル名盤私的ベスト10選。かなり順当なものばかりですが。

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Judas Priest 「Defenders Of The Faith」(1984)
 judas
ジャケットの通り徹頭徹尾ファスト&ヘヴィな重戦車のよう。メタルゴッド全盛期の名盤。

Black Sabbath 「Sabbath Bloody Sabbath」(1973)
sabbath
実験性により怪しさと完成度を増した初期Sabbathの集大成。

Iron Maiden 「Iron Maiden」(1980)
maiden 
衝撃的なデビュー作。以降の作品に比べると、正統派と呼ぶには余りにも異端な名盤。

Ozzy Osbourne 「Tribute」(1987)
ozzy
1981年のOzzyと在りし日のRandyの名演。ラストの”Dee”も必聴。

Accept 「Staying A Life」(1990)
accept
1985年の初来日時の大阪公演。全盛期の最高に熱いライブ。映像はさらに熱い。

Metallica 「Master Of Puppets」(1986)
master
やっぱりこの頃スピードと破壊力と叙情性が頂点。特にCliff Burtonの”Orion”が美しい。

Manowar 「Sign Of The Hammer」(1984)
sign
漢のマッチョメタルの名盤。問答無用のテクニックと名曲の数々。

Dream Theater 「Images And Words」(1992)
dream
プログレッシブメタルの名盤。テクニックと変拍子とメロディが共存した理想形。

Helloween 「Keeper Of The Seven Keys Pt.2」(1988)
keeper
後年無数のフォロワーを作り、一つのジャンルを築くことになった傑作。

Cynic 「Focus」(1993)
cynic
デスメタルが幻想的なフュージョンと高次元で融合。これ1枚で解散した幻の名盤。

〈番外編〉
Riot 「Thundersteel」(1988)
Queensryche 「Operetion : Mindcrime」(1988)
Viper 「Theatre Of Fate」(1989)
Judas Priest 「Painkiller」(1990)
Paradise Lost 「Draconian Times」(1995)
------------------------------------------------------------

他にもFaith No More や Ministry、Neurosisなども取り上げたかったが、これらもヘヴィメタルではないので選外に。
 
さて2週に渡ってHR/HMの名盤を挙げてみた。どれも以前ホームページでは全てレビューを書いていたのだが、今年ぷららに閉鎖されてしまったので、機会があればまた今度改めて1枚ずつこのブログで書こうかなと思う。

Armored Saint 「Symbol Of Salvation」 (1991)

Symbol of Salvation (Reis)
Armored Saint
Metal Blade
1998-07-14






1. Reign Of Fire
2. Dropping Like Flies
3. Last Train Home
4. Tribal Dance
5. The Truth Always Hurts
6. Half Drawn Bridge
7. Another Day
8. Symbol Of Salvation
9. Hanging Judge
10. Warzone
11. Burning Question
12. Tainted Past
13. Spineless

今月は1991年のアメリカン正統派HMを特集してきたが、最後はこのバンド、Armored Saint。兄弟や幼馴染同士でLAで結成され、1984年にメジャーデビュー。当初は1stアルバムのジャケットにあるような甲冑を着てステージに上がり、剣劇までショーに取り入れていたらしい。

地道に活動を続けてきたが、1990年に悲劇が起きる。ギタリストのDave Prichardが白血病のために他界をしてしまうのだった。バンドの存続も危ぶまれたが、脱退していたメンバー達が戻り意思を継ぐことになる。そして制作されたのがこの4作目である。

決して派手さはないが、良質のヘヴィメタルが展開されている。最も印象的なのは、もの悲しい泣きのギターソロのインストM6からつながるドラマティックなM7。メインソングライターであったDaveの作品も多く収録されており、M12ではDaveのソロも聴ける。

ボーカルのJon Bushはその実力が元々高く評価されており、ここでも好演していた。しかしこの後、彼がAnthraxに誘われて脱退してしまったことにより、バンドはあえなく解散してしまう。正統派にこだわってやってきた彼が、Anthraxで短髪短パンになり時流な音楽を演っているのを見るのは、悪くなかったとはいえ複雑な気持ちだった。

2003年には3枚組として再発されている。そこには大量のデモと膨大なインタビューが収録されており、5人がアルバム制作についてやDaveとの想い出など全てを率直に語っていた。



Savatage 「Streets A Rock Opera」 (1991)

Streets
Savatage
Atlantic / Wea
1991-10-15

1. Streets
2. Jesus Saves
3. Tonight He Grins Again/Strange Reality
4. A Little Too Far
5. You're Alive/Sammy And Tex
6. St. Patrick's
7. Can You Hear Me Now?
8. New York City Don't Mean Nothing
9. Ghost In The Ruins
10. If I Go Away
11. Agony And Ecstasy/Heal My Soul
12. Somewhere In Time/Believe

今週はSavatageJonChrisOliva兄弟によってフロリダで結成されたバンドである。

1989年の前作「Gatter Ballet」のタイトル曲はJonのピアノを前面にフィーチャーしたドラマティックな名曲だったが、その世界観をアルバム1枚に拡大したのがこの5枚目となる作品である。「Streets」と題されたロックオペラ。ニューヨークのスラム街のドラッグディーラーだったD.T. Jesusが、音楽業界で大成功を収めるものの忽然とシーンから姿を消す。その後復活したが、金の絡みでマネージャーが殺され、贖罪を求めてもがくという内容。

12曲の中でM3M5M11M12は組曲になっているため、実質的には全16曲ある。オープニングはおどろおどろしい印象だが、その後は非常にドラマティックな楽曲が続いていく。アップテンポなナンバー、大仰なミドルテンポナンバー、そして静かな弾き語りが交互に並び飽きさせない構成になっている。何より各曲の曲質が非常に高い。特にM12は名曲。

サウンドの鍵になっているのはJonのピアノであり、要所々々で聴かれる彼の美しい鍵盤の調べが、物語をよりドラマティックなものにしている。高音になるとダミ声になってしまう彼のボーカルは玉にキズだが。またChrisのギターソロも絶妙である。

しかし次作を発表した1993年に、Chrisが交通事故によって他界してしまう。Jonも一時期脱退するがその後復帰しバンドもしばらく存続した。

★★★★


Metal Church 「The Human Factor」 (1991)

The Human Factor -Reissue-
Metal Church
Southworld
2012-11-26

1. The Human Factor
2. Date With Poverty
3. The Final Word
4. In Mourning
5. In Harm’s Way
6. In Due Time
7. Agent Green
8. Flee From Reality
9. Betrayed
10. The Fight Song

次はMetal Church。彼らは1980年代初頭にギタリストKirt Vanderhoofを中心に結成。2枚のアルバムを発表し、そのアグレッシブさが好評を得るものの、KirtとボーカルDavid Wayneが脱退。そこへ新たにボーカルMike HoweとギターJohn Marshallを迎えて再始動する。ちなみにMikeは元Hereticだが、DavidはそのHereticのメンバーとReverendを結成しているので、ちょうどボーカルを交換した形になっている。

新たな布陣で3rdBlessing In Disguise」を発表する。これもなかなか悪くないアルバムで、欧州的な質感を見せながら聞き応えあるアルバムだった。しかし全体的にダークなマイナー調でややモノトーンだった。

それがこの4thThe Human Factor」で一皮剥けた印象がある。よい意味でメロディが増量し、全体的な印象もモノトーンからカラフルになった。それはちょうどジャケットにも表れているかのようである。依然としてKirtがコンポーズに関わっているが、今作はMikeの影響も大きい。M2M9のようなミドルテンポのリフで遊ぶような曲は新鮮だ。またそれにより彼らの得意とするハイテンポな楽曲もより映えている。特にM3M6は傑作。

もう一つ感じるのは音作りが前作よりも乾いたアメリカンな質感になった気がするが、これはプロデューサーが変わったためなのだろう。また彼らの楽曲は歌詞も特徴的で、ヘヴィメタルバンドはよく現実離れした詩世界に入りがちだが、このバンドは非常に社会的な内容を歌っている。そういったところがスラッシュに近い質感を感じさせるが、あくまでも王道のヘヴィメタルであるという彼らの姿勢が貴重だった。

1993年に解散するが、98年にはまたKirtを中心に復活している。

★★★☆

 

Vicious Rumors 「Welcome To The Ball」 (1991)

ウェルカム・トゥ・ザ・ボール
ビシャス・ルーモアズ
イーストウエスト・ジャパン
1991-08-25





1. Abandoned
2. You Only Live Twice
3. Savior From Anger
4. Children
5. Dust to Dust
6. Raise Your Hands
7. Strange Behavior
8. Six Stepsisters
9. Mastermind
10. When Love Comes Down
11. Ends of the Earth

先週のMetal Evolutionはファン視点によるなかなか見応えのある内容だったが、やはりメジャーなバンドや歴史的に重要なバンドに限られていた。パワーメタル編もイギリスやヨーロッパのバンドが中心であり、アメリカの往年のバンドはDioManowarのみだったので、個人的にはもう少しそこを掘り下げてほしかったところだ。

当時のBurrn!誌ではアメリカメタルシーンの空洞化が叫ばれており、本来LAメタルとスラッシュの中間に位置するべきバンドがいないと嘆かれていたのを覚えている。そして1991年にはその空洞化を埋めるアメリカンパワーメタル新四天王という特集が組まれ、同年彼らはこぞって力作を発表していた。今月はその4作を特集してみたい。

まずはVicious Rumorsである。彼らは不遇のバンドだ。ハワイ出身のギタリストGeoff Thorpeによってサンフランシスコにて結成。しかしデビューの条件としてVinnie Mooreという早弾きギタリストを加入させることになり、結局彼だけに注目が集まりバンドは使い捨てられてしまうのである。

その後Geoffは心機一転し再出発を図る。新たなメンバーを見つけ2ndアルバム「Digital Dictator」をリリースするが、これが傑作だった。特筆すべきは新ボーカリストのCarl Albertで、彼のハイトーンもよく伸びるパワフルなボーカルによってバンドは生まれ変わっていた。

そしてこの4thでもその方向性は変わっていない。アメリカというよりむしろヨーロッパのバンドが持つような湿気と叙情性のあるヘヴィメタルは、効果的なツインリードも織り交ぜ、正に正統派HMである。佳曲M2M6をはじめ、全体的に疾走曲が並ぶ。その間でM4M11といった新境地なメロウ曲が効果的に配されている。日本でもこれで一気に人気が出て、来日公演も好評を博した。

しかしその後1995年に不幸にもCarlが交通事故により他界してしまう。つくづく不遇のバンドである。彼らは現在でも新たなメンバーを補充し活動を続けている。

★★★☆


「Metal Evolution」


Metal Evolution [DVD] [Import]
Various Artists
Eaglevision Europe
2012-11-27


1 話「生誕!ヘヴィ・メタル天地創造」
2 話「勃発!初期アメリカン・メタルと地獄の夜明け」
3 話「伝統!初期ブリティッシュ・メタルの鋼鉄の覇者」
4 話「開花!ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルの新しい波」
5 話「華激!グラム・メタルの甘い罠」
6 話「激速!スラッシュ・メタルの破壊衝動」
7 話「革命!グランジ・ロックの光と翳」
8 話「新鋭!ニュー・メタルが開く未来の扉」
9 話「戦慄!ショック・ロックの幻想と怪奇」
10 話「猛撃!パワー・メタルと戦士の剣(ソード)」
11 話「進化!プログレ・メタルの深遠なる世界」

ヘヴィメタルの歴史を大局的に取りまとめた一大ドキュメンタリー。WOWOWで放映されていたので録画しておいたのだが、とにかく凄い量で全部観るのに時間がかかってしまった。

このドキュメンタリーの監督はSam Dunn。以前にも「Headbangers Journey」やIron Maidenの「Flight 666」を制作した彼が、熱い情熱を持って世界中を飛び回って作り上げている。300人という世界中の物凄い数のアーティスト達がインタビューに応えており、皆そうそうたるメンツだが、これも彼の熱意の賜物だろう。

また通常こういった企画物は、単に時系列に並べてひどく客観的にまとめていくものが多い。しかしこの企画がそうしたものと大きく異なるのは、Sam監督の主観が大きく方向付けているためである。NWOBHMバンドにパンクの影響を問い詰めたり、Grungeバンドにヘヴィメタルの影響を探ったり。また毛嫌いしているヘアメタルやニューメタルを、メタルのサブジャンルとして背景を探っていく中で新たな魅力を発見していっている。

最も興味深かったのは「パワーメタル」編。Judas PriestIron MaidenRainbowから、ジャーマンメタルやYngwie、そして今日のヨーロピアンメタルまでの系譜を見事に描いてみせていた。また近年のヨーロッパのヘヴィメタルムーブメントの背景には、歴史や伝統を重んじる精神やクラシックの素養があるからであり、これがアメリカ人とは異なるところなのだというのも非常に納得がいった。

最近のヘヴィメタルに対する世の中の再評価の流れには目を見張るものがある。新しいバンドが登場し、新たな雑誌や番組や映画が組まれている。このドキュメンタリーはそうした流れを決定づけたものの1つであろう。


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