1990s

The Smashing Pumpkins 「Mellon Collie and the Infinite Sadness」 (1995)

メロンコリーそして終りのない悲しみ(通常盤)
ザ・スマッシング・パンプキンズ
ユニバーサルミュージック
2012-12-19


<Dawn to Dusk>
1. Mellon Collie And The Infinite Sadness
2. Tonight, Tonight
3. Jellybelly
4. Zero
5. Here Is No Why
6. Bullet With Butterfly Wings
7. To Forgive
8. Fuck You (An Ode To No One)
9. Love
10. Cupid De Locke
11. Galapogos
12. Muzzle
13. Porcelina Of The Vast Oceans
14. Take Me Down

<Twilight to Starlight>
1. Where Boys Fear To Tread
2. Bodies
3. Thirty-Three
4. In The Arms Of Sleep
5. 1979
6. Tales Of Scorched Earth
7. Thru The Eyes Of Ruby
8. Stumbleine
9. X.Y.U.
10. We Only Come Out At Night
11. Beautiful
12. Lily (My One And Only)
13. By Starlight
14. Farewell And Goodnight

先週の中からこのアルバムだけは取り上げておきたい。Smashing Pumpkinsは、デビューが1991年だったこともあり、グランジ組に数えられることも多いが、音楽的にはかなり異色だった。当時私が最もハマっていたのが、1995年にリリースされたこの3rdアルバム。2枚組28曲というスゴいボリュームにも関わらず全世界で1200万枚以上というモンスターヒットになった作品だ。

中心人物はボーカル・ギターのBilly Corgan。当時読んだ彼のインタビューが非常に印象に残っている。歌詞の内容についての質問に対して、Billyはふざけるばかりで全く答えようとせず、完全にインタビューとして破綻していた。その理由はアルバムの中で余りにも自己の内面を吐露し過ぎたため、これ以上話すことなどないということだった。

無駄なほどに背が高く、声も変で…etc。家庭環境の悪さから異様な程に自己肯定感が低いBilly。そんな自己を投影した主人公が、それを打開するために自身の変革を叫ぶというのが、この作品の大きなテーマとしてある。そうした中で、怒り・悲しみ・喜びという様々な感情が曲毎に爆発する。そのため必然的に各曲の表現の振幅というのが余りにも広いのだ。

ピアノの調べが美しいイントロ①から大仰なオーケストレーションをバックにした高揚感のある②、そしてハードなギターで疾走する③へ。まずこの冒頭3曲で完全に持って行かれる。その後⑨まではかなり歪んでヘヴィな楽曲が並ぶ一方で、⑩から⑬まではポジティブで感動的な楽曲が並ぶ。最後に至っては⑭ではまるで子守唄のように優しく囁く。2枚目の冒頭①と②は、また一転して完全に自暴自棄レベルにヘヴィ。シングルヒットした⑤も名曲だ。これだけの楽曲がありながら捨て曲もなく、驚くほどの完成度を誇っている。それもそのはずで、後にシングルのカップリングやデラックスエディションの膨大な未発表曲で明らかにされたように、この時期Billyは恐ろしいほどの創作意欲に溢れており、ここに収録された何倍もの楽曲を作り上げていたのだった。

ちなみにこのバンドはメンバーも個性的で、日系人ギタリストJames Iha、可愛い顔して歪んだベース音を鳴らすD'arcy、手数の多いドラマーJimmy Chamberlinとキャラが立っていた。後にメンバーの脱退、解散、再結成をする中で、日系ギタリストや女性ベーシストに固執するように、Billy自身この黄金期のメンバーに思い入れが強かったようだ。

1998年の来日公演も観に行ったのだが、それについて書くとまた長くなるので、またの機会に。


Ben Folds Five 「Ben Folds Five」 (1995)

ベン・フォールズ・ファイヴ
ベン・フォールズ・ファイヴ
EMIミュージック・ジャパン
1995-12-13


1. Jackson Cannery
2. Philosophy
3. Julianne
4. Where's summer B
5. Alice Childress
6. Underground
7. Sports and wine
8. Uncle Walter
9. Best imitation of myself
10. Video
11. Last polka
12. Boxing

昨年末はSMAPの解散が話題になっていた。ファンではないので特にコメントはないが、一応便乗して少し関係あるものを取り上げてみる。1996年のキムタク主演のドラマ「ロングバケーション」で使われていたBen Folds Five。

いや実際は使われていたというレベルではなかった。登場人物達がクラシックピアニストで、彼らがBF5の来日公演を観に行くという設定で、バンド名も強調されていた。ドラマ以前からここ日本ではアメリカ本国に先駆けて注目を集めていたのだが、高視聴率のドラマでの露出で人気はさらに沸騰した。ドラマの音楽担当も相当な熱の入れようだったのだろうが、前年にデビューしたばかりの新人だからロイヤルティも安かったはずだと思う。

その音楽は分かりやすく言えばオルタナティブロックに出会ったBilly Joelといったところだろうか。ディストーションに歪んでブンブン鳴るRobertのベースと手数の多いDarrenのドラムの上で、Benのピアノが所狭しと暴れ回る。当時ギターレスバンドは珍しかったが、激しくパーカッシブでありながら非常にメロディアスなBenのピアノを聴けば、このバンドにギターの必要性など全くないことが分かった。3人組なのにFiveとするところも彼らのユーモアだ。

ドラマに使われたM2では自身の哲学を高らかに宣言、本国で人気のあるM6では冴えない青年が開き直っている。こうした等身大の歌詞が勢いのあるポジティブなRock & Rollに乗ってアルバム全編を駆け抜ける。全曲素晴らしいが特にM7は名曲。またメロウなM5やM12もお勧め。

2ndでは本国でも成功を収めるが、バンドは惜しくも2000年に解散。その後もBenは精力的にソロ活動を展開し、2005年の東京厚生年金会館と、2006年のウドーフェスティバルでは私も彼のステージを愉しませてもらった。その後2012年にはバンドで再結成している。


The Sundays 「Static & Silence」 (1997)

Static &amp; Silence by DGC 【並行輸入品】
The Sundays
DGC
1997-09-23


1. Summertime
2. Homeward
3. Folk Song
4. She
5. When I'm Thinking About You
6. I Can't Wait
7. Cry
8. Another Flavour
9. Leave This City
10. Your Eyes
11. So Much
12. Monochrome

1990年、ラジオから甘く澄んだハイトーンボーカルが流れてきて、思わず耳を奪われた。どこまでも透明感に溢れているが、どこか明るくなりきらない陰もある。ずっとこの曲を忘れられずにいたのだが、誰が歌っているのかはずっと分からなかった。

何年も後に分かった声の主は、The Sundaysというイギリスのバンドの紅一点ボーカルHarriet Wheelerで、曲は”Can’t Be Sure”。デビューアルバム「Reading, Writing and Arithmetic」の邦題は「天使の囁き」と付けられていたが、そう形容したくなる気持ちもよく分かった。

Harriet嬢はルックスも非常に端麗なのだが、彼女らはそれを武器にしようとはせず、ジャケットにも一切写真を載せなかった。そしてシングルやアルバムが売れ始めたら、周囲が落ち着くまであえてメディアに出ることを控えたという。その理由は、不必要に売れて自分達のコントロールが及ばなくなることが嫌だったらしい。何と堅実なバンドだろうか。

2ndを出した後、彼女らは姿を消した。そして5年後の1997年に突然復活をする。MTVでM1が流れていたのだが、この歌声を聴いてすぐに彼女だと分かった。どうやらその間にHarrietはギターのDavidと結婚し子供をもうけていたらしい。その2人の共同作業でこのアルバムは制作されている。

ディストーションをかけない澄んだ音色のDavidのギターサウンドの上を、さらに透き通るHarrietの声が浮遊する。以前はThe Smithの影響の強いイギリス的でメランコリックな作風だったのが、M1あたりでもう少し明るくポジティブな雰囲気が感じられるのは、彼女らの私生活を反映しているのだろう。小川のように流れるM4も名曲。また子供の頃に白黒テレビで見たアポロ月面着陸を歌った幻想的なM12も印象的で、この曲のノスタルジーが美しいジャケットとタイトルに反映されている。

結局それからまた音沙汰がなくなってしまって久しい。きっと子沢山になり忙しいのかもしれない。しかしまた唐突に復活する日が来るんじゃないかと願っている。

★★★

 

Pantera 「Vulgar Display Of Power」 (1992)

俗悪 ~20周年記念デラックス・エディション~俗悪 ~20周年記念デラックス・エディション~
パンテラ

ワーナーミュージック・ジャパン 2012-07-10
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1. Mouth For War
2. A New Level
3. Walk
4. Fucking Hostile
5. This Love
6. Rise
7. No Good (Attack The Radical)
8. Live In A Hole
9. Regular People (Conceit)
10. By Demons Be Driven
11. Hollow

先週のBlack Albumと同様に90年代のヘヴィロックシーンに大きな影響を与えたのが、Panteraのこのアルバムである。

彼らも出自はヘヴィメタルだ。ギターのDiamond DarrellとドラムのVinnie Paulの兄弟によって結成された当初は、いわゆる正統派HMを標榜していた。しかしボーカルのPhil Anselmoに交替し、前作「Cowboys From Hell」から彼らはサウンドを大きく転換する。

今作はその方向性をより強化している。ソロもほとんどなくアグレッシヴに切り刻むDarrellの乾いたギターリフと、その上に乗る怒りの猛を吐き捨てるPhilのボーカル。それらが重くグルーヴィなリズムと渾然一体となって突進していく。このサウンドが鬱積していた当時のアメリカの若者達を大いに刺激したのだった。

そしてHM界に与えた影響も大きかった。触発されたRob HalfordはJudas Priestから脱退してしまい、多くのHMバンドも皆こぞってダーク&ヘヴィに方向転換した。変わらなかったバンドは急速に時代遅れのレッテルを貼られ過去のものとされた。

当時BURRN!の表紙にも柔道着を着たPhilが掲載されたが、これに反対していた酒井康氏は編集長を辞任した。坊主に短パンで俺たちはヘヴィメタルだと答えていたインタヴューには私も違和感を感じていた。その違和感は的中し、結果的に彼らは図らずも自らの手でヘヴィメタルを叩き壊してしまったのだった。

彼らは次作「Far Beyond Driven」で全米初登場No.1となり時代の頂点に君臨する。しかし2003年に解散。DarrellはDimebag Darrellと名前を変え、VinnieとDamage Planを組んで活動していたが、2004年に盲信ファンにステージ上で射殺されて他界してしまった。

★★★★



The Black Crowes 「Amorica」 (1994)

AmoricaAmorica
Black Crowes

Warner Bros / Wea 1994-11-01
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1. Gone
2. A Conspiracy
3. High Head Blues
4. Cursed Diamond
5. Nonfiction
6. She Gave Good Sunflower
7. P.25 London
8. Ballad In Urgency
9. Wiser Time
10. Downtown Money Waster
11. Descending

1990年にデビューしたRock & Rollバンドと言えば、忘れてはいけないのが我が愛するThe Black Crowesである。当時こうしたルーツ回帰を目指すRock & Rollバンドがこぞって同時期に現れているが、これは決して偶然ではなく、恐らく当時の飽和したハードロックに対するカウンターパーツとしてある種必然だったのだろうと思われる。

The Black CrowesはChrisとRichのRobinson兄弟によって、アメリカ南部の本場ジョージア州アトランタにて結成されている。Chrisは何千枚というレコードコレクターだったらしいが、その中でも70年代Rock & Rollのさらに先にある、Robert JohnsonやMuddy Waters、Otis Reddingなどのクラシックブルースやソウルに強い影響を受けたという。客演したAllman Brothers BandのChuckに「こういうRock & Rollを演るのに君たちは恐ろしく若いな」と感嘆させたそうだが、彼らにしてみれば当然の結果だったのだろう。

彼らのアルバムは傑作揃いなのだが、1枚選ぶなら3rd「Amorica」だろう。まずはこのジャケットのインパクトがスゴい。このせいでこのアルバムが買い辛かったという人も多くいた。このタイトルに星条旗、そして恐らく肌の色からこの少女は黒人だろうと思われるが、アメリカ南部の土着性を担うという彼らの並々ならぬ自信が表れている。

実際中身の方もかなり濃い内容になっている。デビュー当時は比較的ストレートなRock & Rollだったが、ここでの彼らは南部の泥沼にどっぷりと浸かっている。冒頭ゲストEric Boboのパーカッションを交えた太いグルーヴが渾然一体となってうねる。アルバム前半部はそのまま貫禄のあるR&Rが展開し、Chrisのソウルフルなボーカルや、前作から加入したギタリストMark Fordのソロが冴え渡る。また後半はそれまでの動に対して静のサイドで、スライドやマンドリン、ペダルスティールなどの味わい深い調べが響く。とにかく1曲1曲が素晴らしい。

しかし400万枚売れた1stやNo.1を獲った2ndに比べると、このアルバムは100万枚のみとあまり売れなかった。ストレートなRock & Rollに比べると、より泥臭いものは大衆的ではなかったのかもしれない。また最初にあまりにも売れ過ぎてしまった感もある。しかし彼らはこの作品をもって、現代に継承する南部の王者に君臨したと私は思っている。

★★★★★


Counting Crows 「Underwater Sunshine (Or What We Did On Our Summer Vacation)」 (2012)

Underwater Sunshine (Or What We Did on OUnderwater Sunshine (Or What We Did on O
Counting Crows

Collective Records 2012-04-10
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01. Untitled (Love Song) – The Romany Rye
02. Start Again – Teenage Fanclub
03. Hospital – Coby Brown
04. Mercy – Tender Mercies
05. Meet On The Ledge – Fairport Convention
06. Like Teenage Gravity – Kasey Anderson & The Honkies
07. Amie – Pure Prairie League
08. Coming Around – Travis
09. Ooh La La – The Faces
10. All My Failures – Dawes
11. Return of the Grievous Angel – Gram Parsons
12. Four White Stallions – Tender Mercies
13. Jumping Jesus – Sordid Humor
14. You Ain’t Going Nowhere – Bob Dylan
15. The Ballad of El Goodo – Big Star

Counting Crowsは今年デビュー20周年を迎えた。私はデビュー直後から追っているが、時間が経つのは早いものだ。今まで来日したこともなく、2003年に決まった時も喜んだのも束の間、直前に急遽中止になり涙を飲んだものだった。あの時理由は発表されなかったが、恐らくチケットが売れなかったのだろう。日本ではとにかく知名度が低い。一方で本国での人気は高かった。アメリカのサンフランシスコからデビューしたのは1993年。デビュー作「August Everything & After」は800万枚の大成功を収めていた。

当時このようなアメリカンルーツに根差した大陸的なスケールのロックを標榜するバンドが多く出てきた時代だった。Hootie & The BlowfishやDave Matthews Bandらが出てきたのも同時期で、皆おしなべて驚異的なセールスを上げていた。背景として、混沌としたグランジ・オルタナティブの時代が終わりを告げ、その反動として再び自らのルーツへと回帰したと考えられる。これは60年代後期のサイケデリックムーブメントの終焉後、カントリーロックやシンガーソングライターブームとなったことと全く同じ流れだったと言える。

しかし近年はかつての人気にも陰りが出ているようだ。そんな中で出された2008年の前作「Saturday Nights & Sunday Mornings」は、かつてないほどにハードに攻め立て、歯を食いしばるような意地を見せつけたアルバムだった。今回また4年ぶりに新作「Underwater Sunshine」がリリースされたわけだが、今度は振り子が戻ったかのように、穏やかな作風になっている。

今回はカヴァー集だということだが、元々彼らはライブでもいつも何かしらカヴァーを取り上げており、そのレパートリーは膨大にある。それにしても多彩な選曲になっている。Bob DylanやThe Faces、Gram Personsといったあたりはいかにも彼ららしいルーツ。Fairport ConventionやTeenage Funclubも分かる。意外なのが最近のアーティストが多く取り上げられていること。Travisをはじめ、聞いたことがないアーティストも多い。インナーにAdam Duritzが経緯などを詳細に書いてくれているが、新しいアーティストも色々チェックしているようだ。レコーディングには苦労したようだが、最終的にはどれも立派なCrowsの曲として成り立っている。ちなみにTender MerciesはギターDan Vickreyのサイドプロジェクト。M2、M11、M14は「Hard Candy」のボーナストラックとして収録されていたが、よく聴き比べるとこれらも新録のようだ。

で、やはり実感するのはAdam Duritzのボーカルの素晴らしさだ。デビューの頃からそうだったが、彼は歌声の魅力やストーリーテラーとしての表現力に溢れており、私にとって最も好きなボーカリストの1人である。またバンドの演奏力も非常に安定している。いつの間にかドラムとベースも交替していたようだが、安定感は変わっていない。

それにしても、いつからか新作では国内盤も出なくなってしまったので、もはや来日を期待することもできなくなってしまって久しい。もう単独は無理なので、フジロックあたりが呼んでくれれば、若い人にもアピールできると思うのだが。

★★★☆


Operation Space Opera 「Songs From The Black Hole」(2012)



WEEK 1 ...
Act I: Scene 1 - The Cockpit
1. Blast Off!
2. Who You Callin' Bitch?
3. You Won't Get With Me Tonight
4. Oh Jonas
5. Please Remember
6. Come To My Pod
7. Instrumental ('Maria's Theme')
8. Oh No This Is Not For Me
9. Tired of Sex
Act I: Scene 2
10. Superfriend
11. You Gave Your Love To Me Softly
12. Oh Jonas I Hear You
13. Waiting On You
14. She's a Liar
15. Getchoo
16. I Just Threw Out the Love Of My Dreams
17. Superfriend (reprise)

327 DAYS LATER ...
Act II: Scene 1 - Jonas' Pod
18. She's Had a Girl
19. Dude We're Finally Landing
20. Now I Finally See
Act II: Scene 2 - Outside Maria's Pod
21. No Other One
22. Touch Down
23. Devotion
24. What Is This I Find?
25. No Other One (reprise)
26. Why Bother
27. Longtime Sunshine

Operation Space Operaというグループが話題になっている。素性も全く分からない正体不明のグループで、ネットで無料配信している楽曲もカヴァーのみだ。ではなぜ話題になっているのかというと、Weezerの幻のアルバム「Songs From The Black Hole」(以下SFTBH)を完全に再現しているからである。

「SFTBH」はWeezerのRivers Cuomoが94年のデビューアルバム「Weezer(Blue Album)」に続くアルバムとして構想していたものであり、Weezerのコアなファンの間では有名だ。成功後の孤独感を宇宙空間におけるそれになぞらえ、宇宙をテーマにしたロックオペラというコンセプトで制作されていた。しかしその巨大なテーマの中で方向性を見失い、結局完成に至らなかったという、いわくつきの作品である。

その過程でレコーディングされた楽曲のうちM9, M15, M21, M26の4曲は96年に発表された2nd「Pinkerton」で、M16とM23の2曲はシングルB面に収録されていた。しかし多くの楽曲はその後未発表のままだった。2003-04年頃、私は本国のファンサイトをさまよっていた時に、彼らの大量のデモ音源がリークされているのを発見した。当時ダウンロードした音源は100曲を優に超えた。その中で私は、M1, M3, M6, M8, M27などを聞き「SFTBH」の存在を初めて知った。

2007年以降にリリースされた「Alone – The Home Recordings of Rivers Cuomo 」シリーズや、「Pinkerton Deluxe Edition」で次々とオフィシャルな形で提示されるようになった。しかしそれらはやはり断片的なものでしかなかった。今回のOperation Space Operaは、そうした永年ファンが待ち望んできた完成形を、Riversの代わりに成し遂げてくれたのである。

「SFTBH」は宇宙を舞台にしたラブストーリーである。宇宙飛行士である主人公Jonasと、Maria・Laurelという2人の女性をめぐる三角関係を中心につづられる。その原作に忠実に、ここではJonas役男性ボーカルに加えて、2人の女性ボーカルも再現されている。楽曲はロックオペラとして曲間をつなぎながら起伏のあるドラマが展開される。

そして何よりも楽曲の素晴らしさだ。Weezerは非アルバム曲に名曲が多いとよく言われることだが、そうした隠れた名曲が一堂に会するのがこのアルバムなのだ。分厚いギターリフに乗るキャッチーな歌メロが当時いわゆるパワーポップと呼ばれたが、その全盛期の妙技を十二分に堪能できる。特にM10やM11、M23はその真骨頂。またM16でキュートな女性ボーカルも聞き物。そして感動的なラストM27。オリジナルではないので少しだけで減点しているが、これがオリジナルなら文句なく5つ星だ。Beach Boysの「Smile」のように、いつか本家がリリースしてくれる日が待たれる。

ちなみに昨年末にオフィシャルサイト限定で「Alone」シリーズの第3弾と一緒に、Riversの1994-96年頃の手記が発売された。これは当時のRiversの心情とともに、恐らく「SFTBH」の謎を解き明かす上でも重要な文献だろう。これの日本語翻訳版の販売も期待している。

★★★★☆



Operation Space Opera Site
http://operationspaceopera.bandcamp.com/

Bush 「The Sea Of Memories」 (2011)

ザ・シー・オブ・メモリーズザ・シー・オブ・メモリーズ
ブッシュ

ビクターエンタテインメント 2011-10-19
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1. The Mirror Of The Signs
2. The Sound Of Winter
3. All My Life
4. The Afterlife
5. All Night Doctors
6. Baby Come Home
7. Red Light
8. She's A Stallion
9. I Believe In You
10.Stand Up
11.The Heart of the Matter
12.Be Still My Love

90年代に活躍したグランジロックバンドBushの復活作。解散、再結成を経て、ちょうど10年ぶりとなる5枚目のアルバムである。先週のショートレビューで済ますつもりだったのだが、気が変わってちゃんと書きたくなった。

彼らはもともとイギリスのバンドなのだが、当時のブリットポップに嫌気がさし、アメリカに渡った。そして94年にリリースしたデビューアルバム「Sixteen Stone」でいきなり全米600万枚というビッグセールスを収めた。96年の2枚目の「Razorblade Suitcase」もBillboard初登場No.1を記録した。ボーカルのGavin Rossdaleの甘いルックスもあいまって、一気に注目を集めることとなった。

しかし一方で批判も集まった。Nirvanaにあまりにも似ているというのがその理由だった。確かにGavinがNirvanaの影響を受けたのは事実である。彼らのシンプルで骨太で、少し陰りのあるロックは、当時のグランジの時代も多分に反映しており、確かに個性的とは言えなかったかもしれない。しかしGavinが非常に優れたソングライターでもあったことも忘れてはいけない事実だ。"Comedown", "Machinehead", "Alien", "Swallowed"など数々の名曲を書き、それらがシングルヒットした。単にNirvanaに似ているだけで600万枚も売れはしない。

だが90年代が終わると時代が変わってしまう。グランジの時代が終焉を迎え、アメリカはヘヴィロックの時代に入る。99年の「The Science Of Things」まではそこそこだったが、レーベルを移籍し心機一転を図った2001年の4th「Golden State」は燦々たる結果に終わってしまった。そして彼らはそのまま解散への道を辿った。

2002年にGavinはNo DoubtのボーカルだったGwen Stefaniと結婚し家庭を持つ。Gwenは2000年代の間ソロで随分活躍していたので、恐らくGavin はずっと主夫でもしていたのだろう。ただいい加減飽き足りなくなったのか、05年に別バンド、08年にはソロアルバムを発表。そして遂に11年に念願のBush再結成へと至った。Gavinはオリジナルメンバーでの再結成を望んでいたが叶わなかったようで、新たにギターとベースの2人が入っている。

聴けば一聴して分かる懐かしいあのBushサウンドだ。メランコリックでどこか少し陰のあるメロディライン、ハスキーがかったGavinのボーカル、最近は聞けなくなったストレートなロックだ。全体的に以前よりもグランジっぽさが薄れた一方やや歌メロが増量されているようだ。ソロなどの影響だろうか、明るい曲調のものや、ピアノの弾き語りもあったりと、曲作りも少し多彩になった感がある。待った甲斐のある力作だ。

ちなみにボーナストラックに「Golden State」の最後に収められていた名曲"Float"のアコースティックバージョンが入っていた。私は解散を惜しみながらこの曲を10年間聞き続けていたので感慨深い。国内盤が出たのは驚きだったが、恐らく来日は期待できないだろう。とにかく今は彼らが改めてこの時代に正当な評価を受けることができればと願っている。

★★★☆


「PJ20 (Pearl Jam Twenty)」

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Pearl Jam

Sony 2011-10-24
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先日Pearl Jamのデビュー20周年を記念して製作されたドキュメンタリー映画「PJ20」を見てきた。最初にこんな事を言ってしまっては何なのだが、私は2000年以降のアルバムも実はほとんど聴いていないし、現在はもうそれほど熱心なPearl Jamファンというわけではなかった。しかし90年代は結構好きでアルバムはどれも愛聴していたし、名曲も多かったと思う。スケールの大きいアメリカンロック然としたところが好きで、Nirvanaよりもよっぽど聴いていた。ただ当時彼らはメディアを通してのプロモーション活動を拒否していたためPVがなく、また今みたいにYou Tubeもない時代だったから、動く彼らの姿というのをほとんど見たことがなかった。そんなことから、今回の映画に興味を持ったのだった。

とても良い映画だったというのが感想だ。要因として、まず1つは監督によるところ。1989年よりシアトルに在住し、バンドが結成する前から彼らをよく知っていたCameron Croweが監督だったからこそ撮れた貴重な映像ばかりであり、編集の仕方も愛情が感じられるものだった。

もう1点はバンドのドラマチックなバイオグラフィだ。前バンドMother Love BoneのボーカルAndrew Woodの他界、Chris Cornel(Soundgarden)との友情、デビュー後の爆発的成功とプレッシャー、ライバルKurt Cobainの他界、チケットマスターとの抗争、バンド内の溝と再結束、コンサートでのファン圧死事故と再出発、等々。知ってはいたが、こうして改めて見ると本当に映画のような内容だ。

最も印象的だったのは、Eddyが亡き父を想って書いた"Release"を歌っている時に感極まってステージから降りたというくだり。また牽制しあっていたと言われていたEddyとKurtの二人が楽屋裏で抱き合いながら踊っていたというシーンも貴重だった。

「Binoral」以降はやはり私のように離れてしまったファンは少なくなかったようだが、 それでも根強いファンに愛され続けているのも事実。それはやはりバンドが今まで闘ってきたことの全ては常にファンのためであったということを、ファンが一番良く理解しているからなのだろう。ちょっと私も最近の作品も聴いてみようかと思った。


Gin Blossoms 「No Chocolate Cake」 (2010)

No Chocolate CakeNo Chocolate Cake
Gin Blossoms

429 Records 2010-09-28
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1. Don't Change For Me
2. I Don't Want To Lose You Now
3. Miss Disarray
4. Wave Bye Bye
5. I'm Ready
6. Somewhere Tonight
7. Go Crybaby
8. If You'll Be Mine
9. Dead Or Alive On The 405
10. Something Real
11. Goin' To California

 1年のうちで、5月が一番好きだ。初夏の適度に暖かく爽やかな風が吹く季節。思わずアメリカンバイクに乗りたくなる(もう結婚してから廃車にしてしまったが)。そんな季節にピッタリ合う音楽を今日は一つ。

 1992年にデビューしたアリゾナ出身のギターロックバンド Gin Blossoms。学生の頃に彼らの1996年の2nd「New Miserable Experience」は擦りきれるほど聞いた。爽やかなギターロックの好盤で、そのおかげで当然のように個人的な当時の甘酸っぱい青春の思い出が沢山詰まっている。アリゾナという出身もあってか曲によってはペダルスティールなども使っていたことが余計に好感が持てた。結果的にそれまでに発表した2枚のアルバムは、本国でミリオンセールスの成功を収めたのだった。

 しかし1997年に惜しくも解散してしまう。理由は詳しく分からないのだが、何となく雰囲気的に二人のソングライターであるボーカルのRobinとギターのJesseの不仲と音楽性の不一致が原因なのではないかと、勝手に推測している。その後2002年に再結成を果たし、2006年には10年ぶりの3rdアルバムを発表した。その変わらない方向性が非常に嬉しかった。

 今作はその後ライブアルバムを挟んで4年ぶりにリリースされた4thとなる。予想以上に短いインターバルに喜ぶ一方で、初来日が叶わなかったことがちょっと寂しい。日本で知名度があまりないので仕方ないだろうが、本国でもやはり全盛期ほどの成功を収めるには至っていないようである。それでもこのようにコンスタントに活動をしてくれているのが頼もしく先を期待できる。

 彼ららしくないジャケットとアルバムタイトルにはちょっと不安を抱いたが、中身は良い意味で何も変わっていない。特に派手さも目新しさもないのだが、適度なドライブ感とキラキラと輝くようなグッドメロディが沢山詰まっている。M9ではホーンセクションが入っていたり、M10では大仰な展開が聞けたりと、若干ながら新境地も聴くことができる。画像を見ると、Robinも頭部がだいぶ寂しくなってしまいかつての色男の面影もないのが残念だが、変わらずに良い曲を届けてくれたのは、きっとJesseとも良い関係を保てている証拠だろう。私にとって彼らはいつもそこにいて欲しいアメリカの良心である。

★★★


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  • オンラインツアー③ - アイルランド編
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