American Roots Music

T-Bone Burnett プロデュース傑作10選

t-bone2

今日はプロデューサーT-Bone Burnettが手掛けた作品を色々取り上げてみたいと思います。彼はアメリカンルーツミュージックに造詣が深く、オーガニックな音作りを得意としていますが、ひねくれたポップセンスや実験精神も持ち合わせています。彼の作品全部を聴いたわけではないですが、特に好きなものを10枚選んでみました。

Los Lobos 「How Will The Wolves Survive」(1984)
lobos
今やベテランとなったチカーノバンドの初期の傑作。Rock & Rollとメキシコ音楽が見事に融合しています。

Counting Crows 「August And Everything After」(1993)
crows
吟遊詩人・稀代のボーカリストAdam Duritz率いる大陸的バンドのデビュー作。全米で800万枚の大成功を収めました。

The Wallflowers 「Bringing Down The Horse」(1996)
wallflowers
Bob Dylanの息子Jacob率いるバンドのセカンド。気持ち良いアメリカンロックでシングル”One Headlight”が大ヒットしてました。

OST 「O Brother, Where Art Thou ?」(2000)
brother
南部ルーツミュージックを総括してみせたサントラ。グラミー賞を総ナメし、プロデューサーT Bone Burnettの名を知らしめました。

Ollabelle 「Ollabelle」(2004)
Ollabelle
Levon Helmの娘Amyが在籍していたグループのデビュー作。見事なゴスペルを始め、様々なルーツミュージックを消化しています。

OST 「Walk The Line」(2005)
walk
Johnny Cashの伝記的映画のサントラ。1950年代のRock & Rollが生き生きと再現されており、主演Joaquin Phoenixが熱演してます。

Robert Plant & Alison Krauss 「Raising Sand」(2007)
alison
Led Zeppelinのボーカリストとブルーグラスの歌姫のコラボ作。意外な組み合わせに驚きましたが、聴いて納得。

B.B. King 「One Kind Favor」(2008)
bbking
昨年他界してしまったB.B.の遺作となった作品。落ち着いた雰囲気の中にも彼の熱い想いが伝わってきます。

Willie Nelson 「Country Music」(2010)
nelson
タイトル通りストレートで素朴なカントリー音楽。オーガニックな音作りと老成した味わいが堪能できます。ジャケットも◯。

OST 「Inside Llewyn Davis」(2013)
llewyn
60年代ニューヨークのフォークシーンを描いた映画のサントラ。主演Oscar Isaccを始め、若手の好演が光ります。

R&R、カントリー、ブルーグラス、フォーク、ブルース、ロック、ラテンなど守備範囲はかなり広いですが、この多様なアメリカ音楽はみんな根っこではつながっているということなんですね。これ以外では最近の若手ミュージシャン達の作品は未聴なので、今後聴いてみたいと思います。

「Another Day, Another Time: Celebrating the Music of 'Inside Llewyn Davis'」 (2015)

Another Day, Another Time: Cel
Various Artists
Nonesuch
2015-01-20





Disc 1
1. Tumbling Tumbleweed - Punch Brothers
2. Rye Whiskey - Punch Brothers
3. Will the Circle Be Unbroken? - Gillian Welch
4. The Way It Goes - Gillian Welch & David Rawlings
5. The Midnight Special - Willie Watson
6. I Hear Them All | This Land Is Your Land - Dave Rawlings Machine
7. New York - The Milk Carton Kids
8. Tomorrow Will Be Kinder - Secret Sisters
9. You Go Down Smooth - Lake Street Dive
10. Please Mr. Kennedy - Elvis Costello, Oscar Isaac & Adam Driver
11. Four Strong Winds - Conor Oberst
12. Man Named Truth - Conor Oberst
13. Blues Run the Game - Colin Meloy
14. Joe Hill - Joan Baez, Colin Meloy & Gillian Welch
15. All My Mistakes - The Avett Brothers
16. That’s How I Got to Memphis - The Avett Brothers
17. Head Full of Doubt/Road Full of Promise - The Avett Brothers

Disc 2
1. Mama’s Angel Child - Jack White
2. Did You Hear John Hurt? - Jack White
3. We’re Going to Be Friends - Jack White
4. Waterboy - Rhiannon Giddens
5. ’S iomadh rud tha dhìth orm - Ciamar a nì mi ’n dannsa dìreach - Rhiannon Giddens
6. Hang Me, Oh Hang Me - Oscar Isaac
7. Green, Green Rocky Road - Oscar Isaac
8. Tomorrow Is a Long Time - Keb’ Mo’
9. Rock Salt and Nails - Bob Neuwirth
10. The Auld Triangle -- Chris Thile, Chris Eldridge, Paul Kowert, Marcus Mumford, Noam Pikelny & Gabe Witcher
11. Didn’t Leave Nobody but the Baby - Gillian Welch, Rhiannon Giddens & Carey Mulligan
12. Which Side Are You On? - Elvis Costello & Joan Baez
13. House of the Rising Sun - Joan Baez
14. Give Me Cornbread When I’m Hungry - Marcus Mumford & Joan Baez
15. I Was Young When I Left Home - Marcus Mumford
16. Fare Thee Well(Dink’s Song)- Oscar Isaac & Marcus Mumford
17.Farewell - Marcus Mumford & Punch Brothers

先日の「Inside Llewyn Davis」は1960年代初頭のニューヨークのフォークシーンを見事に描いた映画でした。その映画の音楽を再現したコンサートがにニューヨークで開催されていたのですが、この様子が以前WOWOWで放映されていました。

登場するのは主演したOscar Isaacを始め、Marcus MumfordやPunch Brothersなど映画にも出演していた若手たち。またそれ以外にも、Joan Baez、Jack White、Patti Smith、Gillian Welchなど豪華なベテラン勢も登場していました。こうした面子が皆昔のトラッドやフォーク、カントリーやアイルランド音楽などを演奏するのですが、これが本当に素晴らしい。アコギにフィドル、ウッドベースにビオラ。シンプルな編成のアコースティック楽器に乗る見事な歌声とハーモニーに聴き惚れます。このステージで演奏された音楽は、上のCDとなってリリースされています。

ただ映像で面白かったのは、裏手の楽屋の様子がたっぷりと映されていたこと。ここで中心になっていたのが、やはり音楽プロデューサーのT Bone Burnett。アーティスト達の間を歩き回って、優しくも的確なアドバイスを与えていて、アーティスト達から信頼されているのも分かります。

あと、これを見て一番印象的だったのは若いアーティスト達の存在。Mumford & SonsのMarcus Mumford、Punch BrothersのChris Thile、Carolina Chocolate DropsのRhiannon Giddens、等々。最近のシーンは全く知りませんでしたが、昔の音楽がこうした才能のある若い人達に歌い継がれているのを見るのは良いものです。しかも彼らが売れているというのは何とも良い時代になりました。


Steve 'n' Seagulls 「Farm Machine」 (2015)

Farm Machine
Steve'n'Seagulls
Spinefarm
2015-05-12


1. Grand Opening
2. Black Dog (Led Zeppelin)
3. Thunderstruck (AC/DC)
4. The Trooper (Iron Maiden)
5. Ich Will (Rammstein)
6. Paradise City (Guns N' Roses)
7. Nothing Else Matters (Metallica)
8. Over The Hills And Far Away (Gary Moore)
9. Seek And Destroy (Metallica)
10. Holy Diver (Dio)
11. Run To The Hills (Iron Maiden)
12. You Shook Me All Night Long (AC/DC)
13. Cemetary Gates (Pantera)

今日はちょっと変わり種をご紹介します。バンドの名はSteve 'n' Seagulls。フィンランドのブルーグラスバンドです。ブルーグラスと言えばカントリーと並ぶアメリカの田舎音楽。なぜ北欧のフィンランドでブルーグラスなのか分かりませんが、テーマは農民、アルバムタイトルも耕運機、格好も完全に農耕職人です。

そして実は彼らが演奏しているのが、ハードロック・ヘヴィメタルなのです。Iron Maiden、AC/DC、Metallica、など往年のHR/HMの名曲ばかり。それらの楽曲が全く新しく生まれ変わっています。彼らが手にしているのは、マンドリン、バンジョー、ウッドベース、アコースティックギター、アコーディオン、ブラシ、etc。完全にブルーグラス。しかも巧い。ただのコミックバンドではないようですね。

特にハマってるのはAC/DCナンバー。③や⑫はむしろこっちの方がオリジナルなんじゃないのかと思ってしまうほどの完成度です。

たぶん世の中にはHR/HMとブルーグラス両方好きという人はほとんどいないとは思いますが、HR/HMファンにはこれを聴いてブルーグラスに興味を持って貰えればと思うし、ブルーグラスファンにはこれがHR/HMにハマるきっかけになればいいですね。これ国内盤出ないんでしょうかね。



他の動画も最高なので是非。

2011アルバムショートレビュー

本当に今さらなのですが、昨年リリースされたアルバムで、聴いたけどそのままにしていたアルバムたちのショートレビューをアップします。今週は前編としてアメリカンルーツ系を。

Paper AirplanePaper Airplane
Alison Krauss & Union Station

Rounder / Umgd 2011-04-12
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Robert Plantとのアルバムはグラミーを総なめしていたが、この人はやっぱりUnion Stationと組んでいる方がしっくり来る。相変わらず美しい出来映え。
★★★★

Here We Go AgainHere We Go Again
Nelson Marsalis Jones

Blue Note Records 2011-03-29
売り上げランキング : 5790

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WillieとNorahの組み合わせを見て思わず聴いてみたが、これは完全にジャズなのね。そうなるとむしろWyntonとNorahはそっちの畑だけど、その中で歌いこなしているWillieの柔軟性が驚き。
★★★☆

Fixin to DieFixin to Die
G. Love

Brushfire Records 2011-02-22
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こうしたルーツィーな趣向は、彼のシンプルな音作りに良く合う。ただ個人的にこの人にはどうもかつてのラップのイメージが強くて、それに比べると何か普通だなと思ってしまった。むしろM6のように思いきり泥臭いのをもっと聴きたかった。
★★★

Victim of the BluesVictim of the Blues
Tracy Nelson

Delta Groove Prod 2011-04-19
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この人はまだ現役だったのね。60~70年代のMother Earthはマイナーだが堂に入ったスワンプロックが素晴らしかった。ブルース趣向の今作は、さらに貫禄が出た歌いっぷり。売れなくても良いものは良い。
★★★★

RevelatorRevelator
Tedeschi Trucks Band

Sony Legacy 2011-06-07
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お互いのバンドを合体させてしまうとは、ここの夫婦は本当に仲がいい。ただアルバムは、全編まったりと穏やかな曲ばかりで正直いまいち。せっかく良いバンドなのだから、もう少しノリのいいものや渋めのもの等、色んなレパートリーを聴きたかった。ライブは良さそうだけど。
★★★

ReflectionReflection
Keb Mo'

Yolabelle Int'l 2011-08-02
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もうちょっとこれはもはやブルースではなく、R&Bだな。器用な人だから、スムースでよく出来ているかもしれないが、もう求めているジャンルではないな。 「Keep It Simple」が頂点だったかな。
★★




Various Artists 「The Lost Notebooks of Hank Williams」 (2011)

ザ・ロスト・ノートブックス・オブ・ハンク・ウィリアムスザ・ロスト・ノートブックス・オブ・ハンク・ウィリアムス
オムニバス

SMJ 2011-10-26
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01 Alan Jackson - You’ve Been Lonesome, Too
02 Bob Dylan - The Love That Faded
03 Norah Jones - How Many Times Have You Broken My Heart?
04 Jack White - You Know That I Know
05 Lucinda Williams - I’m So Happy I Found You
06 Vince Gill w/ Rodney Crowell - Hope You Shed a Million Tears
07 Patty Loveless - You’re Through Fooling Me
08 Levon Helm - You’ll Never Again Be Mine
09 Holly Williams - Blue Is My Heart
10 Jakob Dylan - Oh, Mama, Come Home
11 Sheryl Crow - Angel Mine
12 Merle Haggard - The Sermon on the Mount

Hank Williamsはカントリーの最初のスーパースターだ。Carter Family とJimmie Rodgersが作りあげたカントリーを、全米中に広めたのは彼である。数々のヒット曲を世に放ち、Rock & Rollの誕生につながるなど後世に多大な影響を与えた。私が初めて聞いた時は酔っぱらいみたいに聞こえたものだったが、その独特の唱法も特徴的だった。しかし生来の腰痛に対する薬物によって、29歳という若さで他界してしまっている。

そのHank Williamsが生前に記していたという歌詞ノートが遺品から発見された。それらの未発表の歌詞に曲をつけようというのが今回のプロジェクトである。元々このプロジェクトはBob Dylanが一人でやる予定だった。Dylanはフォークやブルースのみならず、カントリーの影響も強く受けており、過去にも97年にJimmie Rodgersのトリビュートアルバムを手掛けたり、01年にHankのカヴァーアルバム「Timeless」にも参加もしている。しかし今回は結果的に様々なアーティストによるコンピレーションという形になったようだ。

それにしてもそうそうたる面子が集まったものだ。Merle HagardやAlan Jacksonといったカントリー界の大御所から、Norah JonesやLucinda Williams、Sheryl Crowらカントリーに造詣の深い女性シンガー、自身の息子Jacob、かつての盟友Levon Helmまでいる。父親や祖父の名前で活動していたHank Williams Jr.やHank Williams Ⅲではなく、孫娘Holly Williamsを呼んだところや、メインストリームのカントリーシンガー達は呼ばないあたりもDylanらしい気もする。ここにWillie Nelsonがいないのは少し意外な気もしたが。

それぞれのアーティストは、それぞれらしい作品に仕上げてきているが、どれも派手にならずに、素朴で味わい深い作品になっている。それは恐らくこれが単なるカヴァーアルバムではなく、Hankの意思を継ぐという目的だったからだろう。恋心や失恋などのHankらしい詩の数々が、60年という時を超えて初めて現代に唄われていることにある種の感慨を覚えずにはいられない。

★★★★


South Memphis String Band 「Home Sweet Home」 (2010)

Home Sweet Home (Dig)Home Sweet Home (Dig)
South Memphis String Band

Memphis Int'l 2010-01-19
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1. Jesse James
2. Deep blues sea
3. Old hen
4. Worry 'bout your own backyard
5. Things is 'bout coming my way
6. Let your light shine on me
7. The carrier line
8. Boogie Bill Anderson
9. Eighteen hammers
10. Bootlegger's blues
11. Dixie darling
12. Home sweet home

今月はアメリカ南部特集としてお届けしてきたが、今週が最後となる。

1920~30年代のアメリカ南部では、ストリングバンドやジャグバンドが流行っていた。前者はアコースティックギター、マンドリン、バンジョー、ドブロギターなどの弦楽器を数人で掻き鳴らすバンド。後者は瓶やガラクタなどを楽器替わりにして鳴らした黒人のバンドであった。が、いずれもこの一時期のみで流行した独特のバンド形態であった。

こうした音楽を現代に継承するのが今回紹介するSouth Memphis Strings Bandである。メンバーはLuther Dickinson、Jimbo Mathus、Alvin Youngblood Hartの3人。Lutherについては、昨年末にBlack Crowesが活動休止した後の同行が気になっていた。古巣North Mississippi Allstarsに戻り今年アルバムをリリースしたが、実は休止前に別のプロジェクトをしていたことを遅れ馳せながら知った。Jimboはバイオグラフィを見て気付いたのだが、昔好きだったネオスウィングバンドSquirrel Nut Zippersのリーダーだった人だ。バンド解散後もソロアルバムやプロデュースなどルーツミュージックの枠内で幅広く活動していたようだ。またAlvinは知らなかったが、グラミーも授賞している黒人ブルースギタリストである。このつながりに驚いたが、3人とも皆南部をベースに活動しているルーツ系ミュージシャンであるという共通項で納得がいく。

さてその音楽は非常に趣深い。先の弦楽器とブルースハープのみで構成され、カントリーブルース、クラシックカントリー、ブルーグラス、フォーク、ワークソングなど戦前の古き良きアメリカのルーツミュージックが展開されている。Mississippi Sheiks(M10)やGus Cannon’s Jag Stompersといった当時の代表的なストリングバンドやジャグバンドの強い影響を見せながら、昔のトラディショナルソングをカバーしている。他にもM6ではBlind Willie Johnson、M9でJohnny Lee Moore、M11でA.P.Carterと、デルタブルースやヒルカントリーのカバーも取り上げている。3人がそれぞれの弦楽器を持ち替えながら掻き鳴らし、楽しそうにコーラスを合わせているのを聴いていると、こうした古き伝統が若い人達にしっかりと受け継がれている事実に喜ばしい気持ちにさせられる。

ちなみにCDのインナーには、2009年に他界した名プロデューサーであり、Lutherの父親であったJim Dickinsonのコメントが載っていた。息子たちは彼の生前から活動していたのだろう。著名の父が息子たちの音楽を両手を挙げて絶賛するコメントに泣けた。これを聴いてきっと彼も安らかに眠れたことだろう。

★★★★


「O Brother, Where Art Thou?」 Original Soundtrack (2000)

オー・ブラザー! オリジナル・サウンドトラックオー・ブラザー! オリジナル・サウンドトラック
サントラ エミルー・ハリス サラ ザ・コックス・ファミリー ジョン・ハートフォード ラルフ・スタンレー ずぶ濡れボーイズ フェアフィールド・フォー スタンレー・ブラザーズ ジェイムス・カーター&ザ・プリズナーズ ハリー・マックリントック

ユニバーサル インターナショナル 2001-08-29
売り上げランキング : 55585

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1. Po' Lazarus - James Carter & the Prisoners
2. Big Rock Candy Mountain* - Harry McClintock
3. You Are My Sunshine - Norman Blake
4. Down To The River To Pray - Alison Krauss
5. I Am A Man Of Constant Sorrow - The Soggy Bottom Boys
6. Hard Time Killing Floor Blues - Chris Thomas King
7. I Am A Man Of Constant Sorrow - Norman Blake
8. Keep On The Sunny Side - The Whites
9. I'll Fly Away - Alison Krauss and Gillian Welch
10. Didn't Leave Nobody But The Baby - Emmylou Harris, Alison Krauss and Gillian Welch
11. In The Highways - Sarah, Hannah and Leah Peasall
12. I Am Weary (Let Me Rest) - The Cox Family
13. I Am A Man Of Constant Sorrow - John Hartford
14. O Death - Ralph Stanley
15. In The Jailhouse Now - The Soggy Bottom Boys
16. I Am A Man of Constant Sorrow - The Soggy Bottom Boys
17. Indian War Whoop - John Hartford
18. Lonesome Valley - Fairfield Four
19. Angel Band - The Stanley Brothers

先週の著書の中で重要な資料の1つとして扱われていたのがこの映画だった。今週はこれを取り上げてみたい。

舞台は1930年代アメリカミシシッピ州。刑務所を脱獄した白人男3人組が、埋蔵金を探すために逃走の旅を繰り広げる。まぁストーリー自体はよくあるロードムービーだが、ひとクセある3人のキャラクターと、道中出会う破天荒な銀行強盗や、選挙に苦戦する州知事、別れたカミさんなど、様々な登場人物たちが楽しませてくれる。

しかしこの映画の最大の魅力は全編に散りばめられた音楽にある。囚人たちが降り下ろすハンマーの音をリズムに唄うワークソング、クロスロードで悪魔に魂を売ったという黒人のギターをバックに歌う3人組のヨーデル、湖の水で洗礼を受ける信徒たちが唄う霊歌、選挙演説の前後に登場するカントリーグループなど、随所に音楽が登場する。それもミュージカルのような無理矢理感がなく、ストーリーの自然な流れの中で、当時の文化背景に基づいて折り込んでいるのが巧い。

多くの曲はアメリカのトラディショナルソング。M6はSkip James、M8とM11はCarter Family、M15はJimmie Rodgersがオリジナルだ。ここで演奏しているミュージシャンとしてはAlison Krauss、Gillian Welch、Emmylou Harrisといった有名シンガーが名を連ねているが、注目すべきはブルーグラスの大御所Stanley BrothersのRalph Stanleyが参加していることだろう。再ヒットしたM5も彼のレパートリーだ。結果的にこのサントラはグラミー賞を授賞し、500万枚以上のセールスをあげ、全米にルーツミュージックブームを起こした。立役者であるプロデューサーT Bone Burnetは、これで名を上げたのだった。今年になってこれのデラックスエディションもリリースされている。

戦前の南部アメリカのルーツミュージックとその文化背景を知る上で、この映画とサントラは正に分かりやすい教科書である。願わくば、私もこんな南部の音楽を辿る旅をしてみたいものだ。

★★★★☆


「ロックを生んだアメリカ南部 ルーツミュージックの文化的背景」

NHKブックス(1071) ロックを生んだアメリカ南部 ルーツミュージックの文化的背景NHKブックス(1071) ロックを生んだアメリカ南部 ルーツミュージックの文化的背景
ジェームス・M. バーダマン 村田 薫

日本放送出版協会 2006-11-29
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プロローグ すべてはふたりのキングから生まれた
第1章 黒人音楽はエルヴィスの中に焦点を結んだ
第2章 ブルースマンの悲痛な叫び ― ミシシッピー・デルタの混淆から
第3章 都市をゆりかごに生まれたジャズ ― ニューオリンズの坩堝から
第4章 ゴスペル 魂の高揚 ― 信仰と教会、そしてアフリカの匂い
第5章 カントリーの故郷はどこか ― オールドアメリカへの郷愁
エピローグ 都市という荒野で歌うディラン

先週のLevon Helmは生粋の南部人だったわけだが、そうした南部に興味を持った時に、ちょうどいいのが本書だった。ブルース、ジャズ、ゴスペル、カントリーといったアメリカ南部を起源とするそれぞれのルーツミュージックの発祥やその背景について、バランスよく解説してくれている。ともすれば、それぞれのジャンルだけで膨大な文量になってしまうところを、簡潔にまとめてくれているのが入門編としてとても入りやすい。しかし克明な事実と深い洞察にも溢れている。

黒人音楽を紐解くには、まずは彼らの奴隷としての歴史を知らねばならない。アフリカから連行されてきた多くの黒人奴隷は、アメリカ南部のプランテーション開墾などの労働に従事させられていたが、その生活の苦しさは筆舌に尽くしがたかった。それは南北戦争後の奴隷解放宣言によっても状況は変わらず、結果的に人種分離法ジム・クロウや、KKKらによる暴虐など、むしろ状況は悪化していた。

特にミシシッピ河岸に広がる肥沃な泥湿地デルタは象徴的だった。悪名高いパーチマン刑務所が設立されたのもこの地域で、James K. Vardamanミシシッピ州知事によって設立されたこの刑務所は、規律に従わなければ容赦なく射殺され、黒人囚人にとって奴隷制以上の地獄として知られた。

こうしたデルタの地獄から逃れようとした流浪の民が奏でたのがブルースであり、また救いを求め通ったプロテスタント系のバプティスト教会で祈りを捧げるための霊歌が発展したのがゴスペルである。

一方で全米で唯一ある程度黒人の自由が認められていた街がニューオーリンズであった。ここには様々な人種や移民が混在したことから、多様な文化が生まれた。彼らは観衆を惹き付けようと、様々な楽器を持ち寄りコンボを組み修練を重ねた。これがジャズへとつながった。

黒人たちはやがて自由を求めて大陸を北上していく。それに伴いこうした黒人音楽もシカゴという都市で新たな発展を遂げていくことになるのだった。

唯一カントリーだけが白人音楽のように見えるが、これも黒人音楽の影響を受けている。アパラチア山脈に伝えられたアイルランド・スコットランドを起源とするバラッドが、新たな音楽の刺激を受けながら発展し、カントリーへとつながっている。これも苦しい生活を余議なくされた民衆が生きる糧として紡ぎ出した芸術であるという点において共通している。

最後に本書の著者はJames M. Vardaman氏であるが、実は彼は先のパーチマン刑務所を設立したミシシッピ州知事のひ孫にあたる。これは決して偶然ではないだろう。恐らく著者はこの事実を知り苦悩した結果、本書を執筆する動機となったことと推察する。なのでこれは必然なのだ。これらの音楽が南部から生まれてきたのと同じように。


Luther Dickinson & The Sons Of Mudboy 「Onward And Upward」

Onward & UpwardOnward & Upward
Luther Dickinson Sons of Mudboy

Memphis Int'l 2009-11-10
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1. Let It Roll
2. Angel Band
3. Where the Soul of a Man Never Dies
4. Leaning on the Everlasting Arms
5. His Eye Is on the Sparrow
6. You've Got to Walk That Lonesome Highway
7. Keep Your Lamp Trimmed and Burning
8. Softly and Tenderly
9. Up Over Yonder
10. In the Garden
11. Back Back Train
12. Glory Glory

 先週触れたThe Black Crowesに2008年から新たに加入していた凄腕ギタリストLuther Dickinson。彼は元々は南部のトリオNorth Mississippi Allstarsのリーダーとして活躍していた。せっかくNMAを捨ててCrowesに加入したのに活動停止とは可哀そうに。彼は今後またNMAの活動でも再開させるのだろうか。

 そのLuther Dickinson、彼は50年代からMemphisで活動をしている貫禄のある南部ロックアーチスト兼プロデューサーJim Dickinsonの息子でもある。その父が2009年に亡くなった。かつてBob Dylanが自伝の中で、「Jimは私と多くの共通点を持っている素晴らしいアーチストである。いつか一緒にレコーディングをしてみたい。」と語っていたのだが、もうそれも叶わない。またDylanは「私の子供と同様に、確か彼にも音楽をやっている息子がいた。」とも触れていた。LutherがJacob Dylanと組んで、息子同士でDylanの叶わなかった願いを叶えてあげるのも面白いかもしれない。

 本作はその息子Lutherが、父の死の3日後に追悼の意を込めて仲間とレコーディングしたものである。その静かな追悼の意からか、ここではギター1本の弾き語りによる、非常にシンプルなカントリーブルース作品となっている。曲は主にトラディショナルな伝承歌のカバーであり、ブルースのみならず、フォークやカントリー、ゴスペルなど様々なアメリカンルーツミュージックが並ぶ。時折聴けるドブロギター(リゾネーターギター)の音色も味わい深く、M1などはSon Houseへのオマージュのようだ。またM3やM12で聴かれる、教会の裏手で録音したような、バラバラなんだけど温かい民衆コーラスが味わい深い。個人的に最近はこういうのが気分だ。

★★★☆


Willie Nelson 「Country Music」

Country MusicCountry Music
Willie Nelson

Rounder / Umgd 2010-04-20
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1. Man With The Blues
2. Seaman's Blues
3. Dark as a Dungeon
4. Gotta Walk Alone
5. Satan Your Kingdom Must Come Down
6. My Baby's Gone
7. Freight Train Boogie
8. Satisfied Mind
9. You Done Me Wrong
10. Pistol Packin' Mama
11. Ocean of Diamonds
12. Drinking Champagne
13. I Am a Pilgrim
14. House of Gold
15. Nobody's Fault But Mine

 この人はアメリカ人にとって生きた国宝みたいな人である。しかしそれは何も伝統的なカントリーを長くやっているからというのでない。かつて保守的なカントリーにあって、後ろ指差されながら様々なジャンルとコラボレーションをし続けたことから、異端やアウトローとも呼ばれた。しかしその結果あらゆるジャンルのアーチストから尊敬の念を得ている。Eric Claptonが主催しているCrossroads Guitar Festivalでも、ブルースディではB.B. Kingがトリを努める一方で、カントリーディのトリはやはりこの人だった。

 1933年生まれだから齢77歳になるのだが、未だに毎年のように作品をリリースし続けているその創作意欲には恐れ入る。これまでスウィングやスタンダードナンバーなど他ジャンルに手を出してきたが、今作はそのタイトルの通り直球である。カントリーの聖地Nashvilleで録音し、オリジナルの新曲を1曲、トラッド3曲、定番のブルーグラス/フォーク・ソング、Ernest TubbのM2, Merle TravisのM3, Doc WatsonのM7のカバーを収録している。

 プロデューサーのT-Bone Burnetはルーツ系作品で引っ張りだこのベテランであり、生音を活かしたオーガニックなサウンド作りが非常に巧い人だ。そのつながりでグラミー賞も獲ったRobert Plant & Allison Clauseの「Raising Sand」の熟練の演者たちがバックを固めている。バンジョーやマンドリン、ペダルスティール、フィドルの響きが、Willieの持つ優しく暖かな歌声と相成って、この上なく味わい深い音世界を構築している。また思わずジャケ買いをしてしまう、このジャケットも良い。

 不謹慎かもしれないが、この人には長生きしてほしいと思ってしまう。

★★★★


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