インドは不思議な国だ。ヒンズー教だけでなく仏教の発祥の地であり、哲学から社会制度・食文化に至るまで独特な文明を持っている。最近は私も仕事でインド人と付き合うことが増えてきたが、潤沢な資金力と押しの強さにはいつも圧倒される。
私がインドについて最も関心があるのは、彼らの音楽である。シタールは日本の琴やアメリカのスティールギターに並ぶ三大弦楽器だと思っているが、あの独特の鳴りと音色はある種のトリップ感覚を与えてくれる。そんなインド音楽を世界に広めたのが、ビートルズであり、ジョージ・ハリソンだった。
この映画はそのビートルズが1968年にインドに滞在していた時の様子に焦点を当てたものである。当時インドでビートルズと同じ時を過ごしたポール・サルツマンといカナダ人の目を通して描かれており、彼が脚本・監督を務めている。
サルツマンは失恋を癒すために、超越瞑想を教えていたマハリシ・ヨーギーのいる北インドのリシケシュを訪れた。そこに偶然滞在していたのがビートルズの面々だった。共に瞑想を学ぶうちに打ち解け、リラックスした彼らの様子を撮影したり、楽曲制作を目の当たりにする。見ているこちらも彼らを身近に感じられる。
それまでのビートルズは世界的な熱狂の渦中にいた。常に注目とドラッグを浴び続け、そのまま行けばジミヘンやジャニスのように死に至るか、ブライアン・ウィルソンやクラプトンのように廃人になっていてもおかしくなかった。そんな彼らをインドに連れて行ったのがジョージだったわけだ。
私は瞑想をしたことはないが、きっと宗教と同様に必要とする人には効果があるのだろう。そのお陰で彼らはクリーンになりクリエイティヴに立ち戻ることが出来たのだから。そして瞑想とインド音楽はセットで世界に広まっていき、平和を希求するヒッピー文化に影響を与えるのだった。そう考えると、ジョージの存在というのは非常に大きかったのだと言える。