先月急逝した親父について思い返してみる。生前は疎ましく思うこともあったが、親父から受けた影響の大きさは否定することは出来なかった。それは山登りだったり、くしゃみの仕方だったり。
音楽もその1つだ。子供の頃に家ではビートルズやカーペンターズなどの60〜70年代のポップスもよく流れていたが、親父が一番好きだったのはクラシックだ。特にカラヤン指揮のベートーヴェンやホルストを自慢のレコードプレイヤーで嬉しそうに流していたのが印象深い。
クラシックギターも好きだった。ナルシソ・イエペス(Narciso Yepes, 1927-1997)の"禁じられた遊び"がお気に入りで、学生時代にはこの曲を弾きたいがために、特注のクラシックギターを購入して練習したらしい。しかし結局あまり上達しなかったようだ。このギターは私が中学3年の時に譲り受け、弦をアコースティックに張り替えてRandy Rhoadsなどを弾いていた。
当時の私はクラシックギターの良さが分からなかったが、歳を重ねて身に沁みるようになった。疲れて寝る前に暗い部屋で流すと、その物悲しくも優しい音色に癒された。一聴するとシンプルだが、よく聴けば、例えば"アルハンブラの想い出"の主旋律とトレモロを同時に弾いているなど超絶技巧に驚かされる。親父が挫折したのも無理はない。
病院で急逝した数日後、葬儀屋が親父の遺体を自宅に運んでくれた。冷房とドライアイスで冷たくなった親父が横たわる和室で、私は線香をあげた後に"禁じられた遊び"を流した。晩年認知症で記憶を無くした親父だったが、この曲を流すと懐かしんでいたものだった。聴こえていただろうか。