春に東京都写真美術館で開催されていた白川義員氏の写真展「永遠の日本 / 天地創造」を観に行った。この写真展は本来であれば1年前に開催されていたはずだったが、コロナの影響により延期されていた。無事開催されたことに感謝。
私は白川氏のことを山岳写真家だと思っていたのだが、そんな狭い枠に留まらないスケールの大きな芸術家・思想家だということを知った。氏はそれまで生涯をかけ世界143ヶ国を巡り以下の10のテーマを手掛けている。
1969「アルプス」
1971「ヒマラヤ」
1975「アメリカ大陸」
1979「聖書の世界」
1984「中国大陸」
1985「神々の原風景」
1986「仏教伝来」
1994「南極大陸」
2001「世界百名山」
2007「世界百名瀑」
これらに共通している理念は「地球再発見と人間性の復興」である。地球の素晴らしさを再認識してもらうことで失われている人間性を取り戻してほしいという氏の想いが込められている。
本展はその氏の最後の2テーマとなっている。前後期の二期構成となっており、両方とも観に行ったのだが、完全入替の全260点という大規模展となっていた。
場内に足を踏み入れてまず驚かされたのは、各作品の艶やかさである。「雌阿寒岳夕照」の妖艶なピンクや「ザ・ウェーブ、アメリカ」の虹色など、まるで加工したかのような色遣いの自然景観は正に氏にしか知り得ないような世界観なのだ。
氏の撮影の特徴の一つが空撮である。チャーターヘリを各地で飛ばしての空からの撮影。それもベストな季節で、日の出日の入りのベストのタイミングを見計らい、パイロットと息を合わせて山稜や火口を捉える。その作品はこれ以上ないほどダイナミックで迫力があるものばかりだ。パキスタン・中国国境の空撮をした際には、総理大臣や国王まで動かして許可を取っている。これは常人には決して真似が出来るものではない。
対象は山ばかりではない。燃え上がるような紅葉に彩られた湖沼や滝、太古から生き続ける巨樹、夕陽に焼けた海岸線など、氏が80を超えても尚精力的に日本中・世界中を旅し続け撮影した傑作がずらりと並び圧倒される。
私は宗教に対しては信心を持たないが、自然そのものに対しては崇拝していると言える。恐ろしくも有り難く、美しくも不可解で、強大にして儚い、掛け替えの無い自然。人間はそうした自然を目の当たりにすることで人間性を取り戻すことができると説く氏の理念に共感した。