美術・芸術

「ASCENT OF 14座へ」

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A. EVEREST エベレスト (2011~2013年)
B. LHOTSE ローツェ (2011~2013年)
C. ANNAPURNA アンナプルナ (2023年)
D. MANASLU マナスル (2012年)
E. K2 (2022年)
F. NANGA PARBAT ナンガパルバット (2022年)
G. MAKALU マカルー (2014年)
H. BROAD PEAK ブロードピーク (2022年)
I. KANGCHENJUNGA カンチェンジュンガ (2018年)
J. GASHERBRUM Ⅱ ガッシャブルムⅡ峰 (2019年)
K. DHAULAGIRI ダウラギリ (2022年)
L. GASHERBRUM Ⅰ ガッシャブルムⅠ峰 (2023年)
M. CHO-OYU チョーオユー (2023年)
N. XIXABANGMA シシャパンマ (2023年)

石川直樹氏の「ASCENT OF 14座へ」が日比谷図書文化館で開催されていたので観に行った。氏がこれまで撮影してきたヒマラヤの8000m峰14座の写真展である。

これまで私は氏の企画展を過去2回観ている。2019年の「この星の光の地図を写す」、そして2020年の「すべての旅は本から始まった- 石川直樹の世界」。2つ目の時は講演会にも参加したし、著者も何冊か持っている。写真家であり、作家であり、冒険家でもある氏は、同世代の私にとって最も気になる1人である。しかし私は知らなかった。氏が今ヒマラヤ14座制覇を目指していたことを。

氏の最初の海外の高山は1998年アラスカのデナリだった。そして南極のヴィンソンマシフや南米のアコンカグアなどを経て、2001年に23歳でエベレストに登頂。七大陸最高峰世界最年少記録を更新した。

その後、氏の活動は驚くほど広がって行った。極北から太平洋の島々、日本の東京から地方まで様々な地域を旅しながら、文化人類学的な観点から人々の暮らしや伝統をカメラに収めてきた。

ヒマラヤはローツェやマカルーなどの写真集が出ていたし、K2は2015年に途中で撤退したことまでは知っていた。2020年に世界がコロナ禍に陥いると、人々の移動は途絶えた。ヒマラヤで登山隊のサポートで生計を立てていたシェルパ達も収入がなくなった。氏はそんなシェルパ達への支援も行っていた。だからだろうか。コロナ後に氏が凄い勢いでヒマラヤへ再び攻め始めたのは。

はっきり言って今回は会場が狭いため、作品数は限られていた。しかしマカルー頂上から撮ったローツェとエベレスト、ダウラギリ頂上から撮ったアンナプルナなど、登った者にしか撮れない見事な作品ばかりだった。

また、本が冒険の始まりとなった氏らしく、それぞれの山の初登頂者が書いた著書と文章が展示されており、各山頂の初登頂のシーンは読み応えがあった。

山は地球上で最も美しく尊いものであり、それぞれの山にはドラマがある。氏は残る最後のシシャパンマに今年再び挑むらしい。無事を祈る。

竜ジャケ

今年は辰年らしい。干支の中では唯一の幻想の生き物。東西で違いはあるが、畏怖すべき存在として多くの神話・伝説に登場する。今日はその辰(竜・龍)のジャケットを並べてみた。ちなみに便宜上、西洋は竜、東洋は龍と区別してます。

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Heavens Gate 「Livin In Hysteria」 (1991)
ジャーマンメタルの雄。Helloweenフォロワーだが、このアルバムのタイトル曲とラス曲は佳曲だった。このジャケットに描かれているように、西洋の竜はこのような大きな羽を持っているのが特徴。この竜はちょっと人間臭いが。

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Yngwie Malmsteen 「Trilogy」 (1986)
スウェーデンの速弾き王。性格には随分と難があるようだが、このアルバムは文句の付けようがない。ここで描かれるように西洋の竜には複数の首を持つヴァリエーションもあり、空を飛び火も吐く。

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Thin Lizzy 「Chinatown」 (1980)
アイルランドの英雄。他のアルバムに比べて人気が低いのはギタリストのせいか。でも傑作。で、こちらは東洋の龍。胴体が長くて羽がないのだが、なぜか空を飛べる。

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Asia 「Asia」 (1982)
プログレ界の凄腕が集まったスーパーバンドなのだけど、時代のせいかあまり緊張感はない。曲は良いんだけど。で、これは東洋の龍なのかな?胴体長いし、羽もないしな。


というわけで、やっぱりハードロック・ヘヴィメタルばかりになってしまった。本当は90年代以降のシンフォニックメタル・パワーメタル系に竜ジャケは多いようだけど、そっちはよく知らないです。

大宮盆栽美術館

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モトリー・クルーのトミー・リーは無類の盆栽好きとして知られる。いつも自宅の庭に並んだ高そうな盆栽たちを嬉しそうに手入れしている画像をSNSでアップしており、パメラ夫人も呆れているらしい。

昨年末の来日時には、さいたま市の大宮盆栽美術館に訪れた様子が上がっていた。ここは私も2年ほど前に行ったことがあるので、正月気分を引っ張るために、今回振り返ってみたいと思う。

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館内に入るとこの盆栽が出迎えくれた。何の木かは忘れたが、いかにも大きくて立派な盆栽で、一体いくらするのだろうと邪推してしまった。

この後の館内の撮影は不可だが、所蔵の名品とともに盆栽の歴史や解説、床の間の座敷飾りなど、盆栽の世界へ引き込まれるような展示がされている。並ぶ盆栽も季節によって展示替えされるとのこと。

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真柏 推定樹齢350年
庭園に出ると撮影可だったので撮りまくった。この幹と枝ぶりの妙を見ながら、350年という長い年月の経過に思いを馳せる。

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山椿 推定樹齢120年
小さくても花はちゃんと咲く。行ったのは冬だったのでツバキだけだったが、他の季節なら梅や桜、藤などの花々も見ることも出来る。

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欅 推定樹齢160年
大木になるはずのケヤキがこの小ささで完成しているのが不思議。ちなみにこれは吉田茂が東京オリンピックの際に出品したものらしい。

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五葉松「青龍」推定樹齢350年
特に立派な名品になると、銘といって名前が付いている。こんなに傾いている木を支えている幹と根の強さはどうだ。

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五葉松「千代の松」推定樹齢500年
樹高1.6m、横幅1.8mを超えるこの美術館の中でも最大の一品。もはや盆栽のスケールを超えている。

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蝦夷松「轟」推定樹齢1000年
見た中では最も樹齢の長い盆栽だった。既に幹の内部は枯れて空洞化しているのに葉は青々としており、その生命力に感嘆した。

私は元々、自然は自然のままであるべき、という考えなので、この盆栽というのはいささか私の自然観に反するものだった。本来なら大きく成長するはずの木々を小さく押し留めているのだから、木々にはストレスなのではないかと。しかしこれを自然ではなく美術品として考えるなら、これ以上のものはないという考えに至った。

出来れば私も小さいものを所有してみたくなったが、置くところがないな。そもそも買えないか

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

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昨年に金沢文庫で開催された「春日神霊の旅」を観た時も思ったが、杉本博司氏は非常に面白い方である。現代美術家であると同時に、歴史家でもあり、宗教家でもあり、色んな分野に精通している。それらを通した斬新な発想が観る者に色々な気付きを与えてくれる。

今回は渋谷区立松濤美術館で開催された「本歌取り 東下り」展を観に行ってきた。本歌取りとは、有名な古歌の一部を取り入れて作歌する手法だが、ここでは氏が過去の美術や文学などから発想を得て新しい作品を創り出している。館内撮影可だった。

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「富士山図屏風」
元々杉本氏はニューヨークを拠点とする写真家である。これは葛飾北斎の「凱風快晴」に対する本歌取りとして、三つ峠山から撮影した迫力のある六曲一双。

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「フォトジェニック・ドローイング015」
世界最初期の写真家であるタルボットが1840-41年頃に撮影したネガから、杉本氏が現像したもの。この女性はタルボット家の家庭教師とされる。

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「Brush Impressions 0625, 0740, 0905, 0906」
コロナ禍で使用期限切れとなった印画紙に、定着液で揮毫した書。暗室で書いた文字が浮かび上がり、文字の起源に思いを馳せたという。

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「Brush Impressions 愛飢男」
いろは歌は昔の日本人が詠んだ秀逸な和歌だが、それに対して氏はあいうえお順に漢字を当てて文章を詠んだ。これも印画紙に現像液で揮毫した署。

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「華厳滝図」/「三鈷杵」
鎌倉時代の「那智瀧図」に対して、華厳の滝の画像を水墨画のように仕立てた作品。そこに当時の三鈷杵を復元した刀剣と蓮台を置いている。この秀逸なコラボレーションも氏の十八番。

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「カリフォルニア・コンドル」「厘細録 ブロークン・ミリメーター」
中国南宋の画家牧谿の「八々鳥図」に対して、コンドル剥製のジオラマを水墨画風に仕立てた。手前はウォルター・デ・マリアの「ブロークン・キロメーター」に対して、古墳時代の管玉を並べた作品。

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「宙景001」/「ギベオン隕石」
JAXAの人工衛星からの最初の遠隔撮影者に選ばれた氏が、撮影した地球の海の遠景。手前に配された隕石が、いびつで味のある茶器のよう

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「No Line On The Horizons」/「いろはうた Transient」
私は知らなかったが、U2の2009年のアルバムのジャケットには、氏の作品「海景」が使用されていた。そのギャラとして氏には自由な楽曲使用権があるらしい。その下には氏の姪であるギタリストJikkiが作曲したロックバージョンいろは歌のCD。

他にも、旧石器時代の石槍、古エジプトの象形文字、室町時代の絵巻物、人形浄瑠璃などから宇宙に至るまで、壮大な人類史を斬新な美術的観点から紐解いていく様は見事としか言いようがない。先日は所蔵した「法師物語絵巻」を題材に狂言の公演まで行ったらしい。
氏が設立した江ノ浦測候所もいずれ行ってみたい。

「歌川広重 山と海を旅する」

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最近はめっきり美術館に行くことはなかった。忙しくなったことに加え、興味を持てる企画展がなかったということもある。そんな折に絶好の企画展が開催されていた。浮世絵を専門とする太田記念美術館による歌川広重(1797-1858)の山と海にテーマを絞った企画展である。

場内には期待通り山の絵が一杯並んでいた。箱根山(1438m)や富士山(3773m)は「東海道五十三次」で見慣れているが、近いところでは江戸の愛宕山(25.7m)や相模の大山(1252m) 。遠方では出羽の月山、榛名山(1449m)、播磨龍山(92.4m)、伯耆大山(1729m)、石鎚山(1982m)、大隅桜島(1117m)まで、全国各地の山々が見られた。いちいち標高を書いてくれているのが地味に有難い。多くは「六十余州名所図会」シリーズのものだった。中でも鋭角構図が印象的な「比良暮雪」を見られて良かった。

今回の目玉は「山海見立相撲」シリーズの全20図の展示である。これは諸国の山と海を10図ずつ相撲に見立て制作したシリーズであり、全20図が揃って展示されるのは今回初とのこと。 1858年の亡くなる晩年に出版された遺作でもある。特に目を引いたのは「越中立山」。広重らしからぬ恐ろしいほどに尖った剣山が印象的だった。

広重は箱根や房総、甲州、信州、奥州に旅をしたことが分かっている。その際に描いたスケッチが残っており、それらを後の作品に仕上げている。また旅の紀行文も書いており、各地で食べた者や会話した相手、道を間違えたことなど実直に記しており面白い。

ただ逆を言えば、記録のない場所には恐らく彼は行ったことがないと思われる。実際に「東海道五十三次」の西側のほとんどは他の絵師の作品を典拠にしていたらしい。本展でも典拠元となっていた竹原春泉の「二十四輩巡拝図会」や、葛飾北斎の「北斎漫画」、谷文晁の「名山図会」の作品も掲示していた。多少アレンジはしているものの、構図は全く同じものが多かった。

当時全国を旅するのは、今以上に時間も金も要する。ましては彼のような売れっ子になれば、なかなか旅をする暇もなかっただろう。それでもあまり知りたくはなかったかな。

「心に映る山」

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初めて山岳画に興味を持ったのは今から5年前になる。横浜美術館で大下藤次郎の水彩画を見た時だ。あれ以来、古今東西の様々な素晴らしい山岳画に出会ってきた。

中村好至惠さんの絵に出会ったのも最初の頃だった。ネットで「山の絵」というホームページを見つけ、その見事な水彩画に惚れ込み急いでブックマークした。さらっと描いているようで、それぞれの山の持つ空気感を閉じ込めた作風に感銘を受けた。

昨秋は実際に絵を目にする機会に恵まれた。山梨の日野春アルプ美術館で中村さんの個展が開催されたのだ。私は知らなかったが、アルプ美術館では中村さんの個展がこれまで何度も開催されており、閉館に伴いここではこれが最後になるということだった。全国各地の名山を描いた沢山の作品が館内にずらりと展示されているのは圧巻で、何時間見ていても見飽きることがなかった。

この時、館長さんから横浜にも中村さんの絵を見られる場所があることを伺った。何でもこちらのカフェで定期的に個展を開いておられるのだという。そこで早速行ってみることにした。

相鉄線希望ヶ丘駅から徒歩4分のカフェ・ピッコロ。お洒落なお店の2階の壁中に絵が展示されていた。美味しいお食事を頂きながら絵を眺める。至福の時。

するとその時、1人の女性が2階に上がって来られた。何と中村さんご本人がそこにいらっしゃった。予想もしなかった展開に驚いたが、こんな機会はまたとない。色々とお話を伺った。

中村さんは完全現場主義だった。絵の具を持って山へ登り、ポイントを決めると30分で描き上げるのだという。厳冬期には絵の具が凍ってしまうこともあるらしい。しかし写真を撮って終わるのとは違う、その山と向き合う30分なのだ。伺っていて自分も山で絵を描きたくなってきた。

今ここに1冊のサイン入りの画文集がある。中村さんが2014年に白山書房より出版された「心に映る山」だ。丹沢、八ヶ岳、南アルプス、北アルプス、八ヶ岳をはじめ、各地の名山が情景豊かに描かれている。水彩画の淡い色合いが、にじみ、混ざり合う。それぞれの山々にある匂いや湿気などの空気感が中村さんの絵からは漂ってくるのだ。そしてそれぞれの絵に添えられた文章がまた味わい深い。

5年前に1枚の山の絵に出会ってから私の人生は変わった気がする。この間に色々な苦難があったが、山と絵を心の拠り所にしてどうにかやって来れたと言える。出会いに感謝。

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「生誕100年記念 日本画家・横山操展」

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今春にはるばる新潟市新津美術館まで観に行ってきた「生誕100年記念 日本画家・横山操展 -その画業と知られざる顔-」。これについてもう少し書いておきたいと思う。

横山操(1920-1973)は今の新潟県燕市吉田出身の戦後を代表する日本画家である。私は彼の作風が好きなのだが、昨年が生誕100年にあたることから回顧展が開催されることをかねてから期待していた。本当は平塚市美術館で開催される予定だったのだが、残念ながらコロナのために中止となってしまった。その後北陸で巡回展があることを知り、遠いのを覚悟して観に行くことにした。

横山操は戦前は川端画学校で学び、青龍展でも入選していた。しかし1940年の20歳の時に招集され中国に渡り、終戦後もシベリアで捕虜として勾留され続けた。日本に帰国できたのは10年後の1955年、30歳のことだった。

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帰国後、彼は失われた時間を取り戻すように画業に取り組んだ。しかし彼の画風はある種異様だった。上の焼けただれた五重塔を描いた「塔」(1957)のように、太くてドス黒い筆で描くキュビズムのような絵は、まるで戦争を体験してきた彼の心を見ているようである。

私が初めて知った彼の「炎炎桜島」もこの頃の作品だ。残念ながらこれはなかったが、これに近い構図の作品は拝むことが出来た。基本的に写実画が好きな私だが、彼の絵だけは別格だ。

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彼の画風は年代によってどんどん変化していく。上の「赤富士」(1966)のように線は細くなり、写実性が増し、伝統的な日本画表現や水墨画表現にも挑戦する。しかしやはり異様な迫力は変わらない。

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これは1965年の「ふるさと」だが、晩年の作品に感じられるのはこのような圧倒的な寂寥感だ。1971年に脳卒中により右半身付随になるのだが、以降は左手で描き始め、これに勝る寂寥感を封じ込めていく。そして1973年、53歳の若さでこの世を去るのだった。

戦争は人の人生を狂わせ、人の心を変えてしまう。以前観た相原求一朗の絵も、ジャンルこそ違えど非常に似た世界観を感じた。

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ちなみに横山操は後年ライバルであった加山又造とともに東京の多摩美術大学で日本画を教えていた。当時多摩美は都心にあったが、今はうちのすぐ近くの八王子市遣水にキャンパスがある。そこの美術館で先日「現代日本画の系譜 - タマビDNA」展があった。横山操の教えを受けた方々のインタビュー映像を観たのだが、優しく丁寧に教える彼が後進に慕われていた様子が語られていた。絵のイメージとは違った彼の一面を知ることが出来た。

「永遠の日本 / 天地創造」

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春に東京都写真美術館で開催されていた白川義員氏の写真展「永遠の日本 / 天地創造」を観に行った。この写真展は本来であれば1年前に開催されていたはずだったが、コロナの影響により延期されていた。無事開催されたことに感謝。

私は白川氏のことを山岳写真家だと思っていたのだが、そんな狭い枠に留まらないスケールの大きな芸術家・思想家だということを知った。氏はそれまで生涯をかけ世界143ヶ国を巡り以下の10のテーマを手掛けている。

1969「アルプス」
1971「ヒマラヤ」
1975「アメリカ大陸」
1979「聖書の世界」
1984「中国大陸」
1985「神々の原風景」
1986「仏教伝来」
1994「南極大陸」
2001「世界百名山」
2007「世界百名瀑」

これらに共通している理念は「地球再発見と人間性の復興」である。地球の素晴らしさを再認識してもらうことで失われている人間性を取り戻してほしいという氏の想いが込められている。

本展はその氏の最後の2テーマとなっている。前後期の二期構成となっており、両方とも観に行ったのだが、完全入替の全260点という大規模展となっていた。

場内に足を踏み入れてまず驚かされたのは、各作品の艶やかさである。「雌阿寒岳夕照」の妖艶なピンクや「ザ・ウェーブ、アメリカ」の虹色など、まるで加工したかのような色遣いの自然景観は正に氏にしか知り得ないような世界観なのだ。

氏の撮影の特徴の一つが空撮である。チャーターヘリを各地で飛ばしての空からの撮影。それもベストな季節で、日の出日の入りのベストのタイミングを見計らい、パイロットと息を合わせて山稜や火口を捉える。その作品はこれ以上ないほどダイナミックで迫力があるものばかりだ。パキスタン・中国国境の空撮をした際には、総理大臣や国王まで動かして許可を取っている。これは常人には決して真似が出来るものではない。

対象は山ばかりではない。燃え上がるような紅葉に彩られた湖沼や滝、太古から生き続ける巨樹、夕陽に焼けた海岸線など、氏が80を超えても尚精力的に日本中・世界中を旅し続け撮影した傑作がずらりと並び圧倒される。

私は宗教に対しては信心を持たないが、自然そのものに対しては崇拝していると言える。恐ろしくも有り難く、美しくも不可解で、強大にして儚い、掛け替えの無い自然。人間はそうした自然を目の当たりにすることで人間性を取り戻すことができると説く氏の理念に共感した。

山アートの旅(長野編)

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昨年の流行語大賞トップテンにはソロキャンプも選ばれていた。昨年夏に娘とキャンプをした時に味をしめ、同じ月に長野へもソロキャンプに行っていた。長野の安曇野から大町のエリアには、山に関する美術館や博物館がずらりと並んでいて、以前から行きたいと思っていた。

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安曇野山岳美術館。足立源一郎をはじめ、吉田博・原田達也氏などの素晴らしい山岳画を所蔵。熊谷榧さんの個展も開催していた。

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常念岳山麓にある須砂渡キャンプ場。素泊まり900円。蝶ヶ岳温泉も徒歩圏内。涼しくてセミも蚊もいない。花はサワギキョウ。

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烏川沿いに立つウエストン像。上高地のレリーフは有名だが、こちらは全く知られていない。

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田淵行男記念館。山岳写真家であり高山蝶研究家である氏の写真やスケッチが展示されている。槍ヶ岳山荘の穂刈氏らの写真展も開催されていた。

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大町山岳博物館。北アルプスの成り立ちや膨大な山岳生物の剥製、登山史の展示、飼育されているライチョウなど、予想以上に広くて午後一杯かけても全部見切れなかった。

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木崎湖キャンプ場。クマ出没警戒警報が出ていたり、夜雨が降ったりと大変だったが、翌朝は気持ち良く晴れトビが囀っていた。

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北アルプス展望美術館。ここで日本山岳画協会の史上最大規模の展覧会が開催されていた。F100号以上の作品がずらりと並び圧巻だった。

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北アルプスの山稜はずっと雲がかかっていて見えなかったが、代わりに緑の田の向こうに聳える有明山が印象的だった。また今年の夏もソロキャンプに行きたいがどうだろう。

富嶽図10選

2月23日は富士山の日である。昨年は私がそれまで撮影してきた富士山の写真を10枚選んでみたのだが、今年は趣向を変えてみたい。

私は山の美術を眺めるのも好きなのだが、日本で最も多く描かれてきた山が富士山である。恐らく世界中でもここまで美術の対象となってきた山はないだろう。このことは富士山が世界文化遺産に登録された理由の1つでもある。

ということで、今日は私が最も素晴らしいと思う富嶽図を10枚挙げてみたい。

①15c_伝雪舟等楊『富士三保清見寺図』
① 伝雪舟 「富士三保清見寺図」15c
雪舟は日本の水墨画を完成させた巨匠。この三保松原からの遠景は富嶽図のプロトタイプとして後世に影響を与え続けた。

②16c_狩野元信_絹本着色富士曼荼羅図
② 狩野元信 「富士参詣曼荼羅図」16c
修験道として富士参詣は人気を集める。山麓の浅間神社から山頂の如来三尊までの山行が細かく描かれている。

③1799 司馬江漢〈駿河湾富士遠望図〉
③ 司馬江漢 「駿河湾富士遠望図」1799
いち早く洋画の手法を取り入れた司馬江漢の作品には江戸時代中期とは思えない写実性がある。医学や地図制作にも通じた奇才。

④1801_小泉檀山_富嶽写真
④ 小泉斐 「富士登岳図巻」1801
実際に自身で富士に登った上で制作した長大な図巻。大胆な構図と臨場感で、同時代の谷文晁もこれを模写している。

⑤1832_葛飾北斎_山下白雨 冨嶽三十六景
⑤ 葛飾北斎 「富嶽三十六景 山下白雨」 1832
間違いなく世界で最も有名な富嶽の巨匠。「富嶽三十六景」以外にも「富嶽百景」や肉筆画なども多数あり。

⑥18_歌川広重_隷書版東海道五十三次_原
⑥ 歌川広重 「隷書版東海道五十三次 原」1849
「東海道五十三次」が有名だが、広重も「不二三十六景」を描いている。画面からはみ出すほどの迫力。

⑦1896_富岡鉄斎_富士山図屏風
⑦ 富岡鉄斎 「富士山図」1898
文人画・南画の奇才。彼も富士に登頂しており、その経験を元に見事な六曲一双屏風に描いている。

⑧1918和田英作「富士」
⑧ 和田英作 「富士」1918
洋画の富士山なら和田英作は外せない。山麓に移住し後半生はひたすら富士に向き合った。穏やかな写実が特徴的。

⑨1925_不染鉄《山海図絵(伊豆の追憶)
⑨ 不染鉄 「山海図絵」1925
不思議な魅力の日本画家。伊豆諸島に暮らしたこともあり、伊豆の海中から日本海まで俯瞰する大胆な構図で描かれている。

⑩1942_横山大観_正気放光
⑩ 横山大観 「正気放光」1942
富士山で有名な近代日本画の巨匠。迫力のある見事な富士を描き続けたが、戦時中は国粋主義が色濃かった。

古来より現代まで富士の美術作品はとにかく膨大にあるため、たった10点を選ぶのには難儀した。もし好きな人がいれば、河口湖美術館やフジヤマミュージアムをお勧めしたい。
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