Cuban

Rubén González 「Introducing...」(1997)

イントロデューシング
ルベーン・ゴンサーレス
ダブリューイーエー・ジャパン
1997-10-15





1. La Enganadora
2. Cumbanchero
3. Tres Lindas Cubanas
4. Melodia Del Rio
5. Mandinga
6. Siboney
7. Almendra
8. Tumbao
9. Como Siento Yo

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブが人気を集めたのは、その素晴らしい音楽もさることながら、老ミュージシャン1人1人の愛すべきキャラクターも大きな要因であった。男気溢れるコンパイ・セグンド、気の良いイブライム・フェレール、姉御肌のオマーラ・ポルテゥオンド、etc。そんな中で私が最も好きなのはピアノのルベーン・ゴンザレスだった。

ルベーン・ゴンザレス(Rubén González)は元々アルセニオ・ロドリゲスやエンリケ・ホリンといったキューバ音楽を代表する人達のバックで長年ピアノを弾いてきており、キューバのトップピアニストとして3本指に入ると言われていた。しかし80年代にホリン他界後バンドリーダーとなったが、性に合っていないと音楽界から引退してしまう。自宅にあったピアノも虫に喰われて捨ててしまい、以降何年もピアノを弾いてすらいなかったという。そんな彼が96年にブエナビスタのレコーディングに招集される。当時彼は齢77歳だった。

実はこの時既に彼はアルツハイマーを抱えていた。日々の生活や過去の記憶もだいぶ忘れがちな状況にあった。しかしピアノだけは覚えていた。エグレム・スタジオで久々にピアノを弾いた彼は正に水を得た魚のようだった。以降彼は毎日誰より早くスタジオに行って待ち、スタジオが開くと同時にピアノに向かって突進したのだという。

そんな彼のピアノを堪能できるのが、このソロアルバムである。多彩なリズムの中で軽快に力強く踊り舞い、そこから紡がれる旋律はどこまでもメロディアスで美しい。言葉で語るよりも遙かに能弁であり、これを聴けばいかに彼が楽しんでレコーディングをしていたかが良く分かるだろう。

歩く時も介添が必要ではあったが、ステージでの彼は鍵盤のないところまで立ち上がって弾き続けるような茶目っ気たっぷりのパフォーマ ンスで観客を沸かせていた。一度生で彼のプレイを観てみたかったが叶わず、2003年に84歳で他界。06年に来日したアディオスツアーでも、他界を痛感させるスクリーンの彼の写真がただ悲しかった。

きっと向こうの世界で虫に喰われることのないピアノをいつまでも嬉々として弾き続けていることだろう。
RIP


『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』

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映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』を観た。当初単にアディオスツアーのことを取り扱った続編ドキュメンタリーかと正直あまり期待していなかったのだが、実際は非常に見応えのある内容だった。

1999年に公開されたオリジナル映画の方は、キューバの老ミュージシャン達の当時の様子を良く捉えていたものだった。今作はもっとキューバの歴史やソンの起源などを掘り下げている。スペインからの独立、黒人差別、カストロの革命、ソンにおけるコンガの禁止、etc。

またメンバー1人1人の生い立ち、若かりし頃の貴重な映像も見られる。知らなかったのは、オマーラ・ポルテゥオンドがまだ若かった頃姉妹で歌っていた後ろで、イブライム・フェレールがバックシンガーとして歌っていたこと。その後オマーラはソロとして成功した一方で、イブライムは素晴らしい歌声を持ちながらも陽の目を見ずに引退した。2人で情感深く歌っていた背景にはこうした歴史があったのだ。

アムステルダム公演前のリハーサル場面も印象的だった。エリアデス・オチョアにとってコンパイ・セグンドは憧れの大先輩だったのだが、リハーサルでエリアデスはコンパイにギターのキーが外れていると指摘し、これに対してコンパイが激昂する。公演中2人は笑い合いながら演奏していたが、裏にこんな経緯があったからこそあの笑顔だったのだというのも初めて知った。

今は亡きコンパイ、ルベーン、イブライムら愛すべき老名手達の葬儀の様子も観ることが出来て良かった。イブラヒムの追悼公演でのオマーラの熱唱には目頭が熱くなった。

オバマ大統領時代にホワイトハウスに招かれたというのはニュースで知ってはいたが、この時の様子も収録されていた。あの時は両国の明るい未来を夢見たが、トランプ時代の今となってはもはや遠い過去のようである。


Buena Vista Social Club Live Report 2016

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2016.3.18 @ 豊洲Pit

先日Buena Vista Social Clubがアディオスツアーで来日し、最後の日本公演を行った。元々高齢だったオリジナルメンバーの多くは既に他界しており、実際新しいメンバーの多い今のグループはOrquesta Buena Vista Social Clubという名前で活動していたが、それも今回が最後になるという。

会場は豊洲Pit。年齢層は幅広かった。私はステージ左端の2列目を確保する。ずっと色々なキューバ音楽がSEで流れていたが、開演の19:00を5分ほど過ぎた頃に、歓声の中ピアノのRolandoが登場した。そして1人で静かに鍵盤を弾き始める。曲は”Como Siento Yo”。Ruben Gonzalesのソロ曲だ。美しくも力強い調べと、バックスクリーンには在りし日のRubenの映像が流れ感傷を誘う。

終わるとバンドが登場し”Bodas De Oro”で演奏がスタートした。編成は前列左手からピアノRolando、ウッドベースPedro、ラウーBarbarito、ギターSwami、トランペットはLuisとGuajiritoとGuajiroの3人。後列はコンガAndreas、ボンゴArberto、ティンバレスPhilibertoのパーカッション3人。曲途中からCarlosとIdaniaの男女ボーカルも登場して華を添える。

オリジナルメンバーのBarbarito Torresはとても元気だった。彼が弾いているのはラウーという弦楽器。小ぶりな三角のボディに12本の弦があるキューバ独特のもの。最初は座って弾いていたが、曲中に何度も立ち上がり前に出てきて、ステップを踏みながら、ソロを決めて魅せた。

右端にいたGuajiro Mirabalは印象的なトランペットを聴かせてくれたが、立ち上がって演奏することはなかった。またいるはずだったトロンボーンのJesus “Aguaje” Ramosの姿は残念ながら見当たらなかった。

亡くなったメンバー達もそれぞれのソロ曲が演奏される際に次々とスクリーンに登場した。4曲目のインストTambaoではCachaito Lopezの、”Bruca Manigua”ではIbrahim Ferrerの映像が流されていた。そしてそうした故人の遺志を継ぐように、Pedroはウッドベースで見事な指さばきを魅せ、ハンチングを被ったCarlosは高らかに歌い上げていた。

「キューバの伝説のディーバ!」という紹介でOmara Portuondoが大歓声の中で出てきて”Lagrimas Negras”を歌う。彼女の年齢はもう85歳になるはず。登場するなりピアノの前に置いてある椅子に腰掛けながら歌っていたのでやはり歳かなと思ったが、途中からは立ち上がり、その後ほとんど最後まで座ることはなかった。そして何より依然張りと伸びのある歌声が見事だった。曲が終わると「ドウモアリガトゴザイマシタ!」と滑らかな日本語で深々とお辞儀をしていた。

バンドが全員下がり、ピアノだけをバックにした”20 Anos”での歌い上げは思わず聞き惚れた。続いてラウーとギターだけをバックにして歌い出したのはスタンダード”Besame Mucho”。彼女は客をノせるのが本当に上手く観客も大合唱。スカートをたくし上げてのっしのっしと踊ったり、”Quizás, Quizás”ではフロアから若い日本人男性を舞台に上げて一緒に踊ってみせたり、彼女は本当にエンターテイナーだった。

ここでOmaraは一旦退場。バンドだけでインストの”Black Chicken”。3人のリズム隊が1人ずつソロを決める。そのパーカッシブなリズムと力強い演奏が、たとえOmaraがいなくても観客のテンションを決して下げさせない。

この後は名曲のオンパレードだ。”Chan Chan”が始まると大歓声。バックには御大Compay Segundoの映像。続いて最も好きな”Candera”は私のハイライト。終始アップテンポな高揚感。途中Barbaritoが弾いている時にCarlosが歌って邪魔をしたということで、Barbaritoが怒ったふりをしてCarlosにラウーを弾いてみろと迫る。するとCarlosが見事に弾いてみせて歓声。その後Barbaritoがこれに負けじとCarlosにラウーを持たせ、後ろ手でソロを決める。映画のカーネギーホールで披露していたこの技に観客は大歓声を送った。途中からまたOmaraも再登場。そしてスタンダードナンバー”Guantanamera”で盛り上がって本編終了。

アンコールでは、まずOmaraとCarlosが登場。ラウーとギターだけをバックに"Dos Gardenias"を歌う。親子ほどの年齢の違う2人だが、寄り添いながら非常に熱いデュエットを披露してくれた。そして締めは名曲"El Cuarto De Tula"。最後はフロントのメンバー達が皆前に並んでラインダンスをしてみせていた。終わってから場内「キューバ!キューバ!」の大歓声。キューバ音楽の素晴らしさと、日本での人気の高さを実感した一夜だった。

1. Como Siento Yo  (Rubén González cover)
2. Bodas De Oro
3. Rincón Caliente
4. Tumbao  (Orlando "Cachaito" López cover)
5. Bruca Maniguá  (Orquesta Casino de la Playa cover)
6. Lágrimas Negras  (Trío Matamoros cover)
7. 20 Anos
8. Besame Mucho
9. Amor De Mi Bohio
10.No Me Llores Más  (Arsenio Rodríguez cover)
11.Quizás, Quizás  (Osvaldo Farrés cover)
12.Black Chicken 37
13.Marieta
14.Chan Chan  (Compay Segundo cover)
15.Candela
16.Guantanamera
Encore:
17.Dos Gardenias  (Isolina Carrillo cover)
18.El Cuarto De Tula  (Luis Marquetti cover)


Buena Vista Social Club 来日






今週いよいよBuena Vista Social Clubがキューバから来日します。これが最後のアディオスツアーということで非常に楽しみにしていました。

昨年アメリカはキューバと国交正常化交渉を進め始め話題になっていました。その一環で彼らがホワイトハウスに招かれ演奏していたのが報道されており、あぁまだ活動してるんだ観たいなぁ、と思っていた矢先の来日決定。

しかしチケット発売まで少し日にちがあるなと思っていたら、まさかの出遅れで完売。慌ててキューバ音楽コミュニテイの知り合いに聞いて回ってもチケット余っている人などいるはずもなく、オークションにも出て来ず。武蔵野市民文化会館なんていう小さい会場で1日のみの公演だから当然です。もう完全に諦めていたところに追加公演決定。感謝々々。

元々高齢のグループだったので、既に他界している人も多く、Compay SegundoやIbrehim Ferrer、Ruben Gonzalezなど主要メンバーはもう皆いません。またEliades Ochoaはまだ若いので健在なのですが、ちょうど同時期に本国でフェスティバルがあり、彼は自身の率いるグループでそちらに出演するらしく来日しません。でもOmara PortundoやGuajiro Mirabalなどまだ4人のオリジナルメンバーが残っています。名曲と名演を堪能したいと思います。

ちなみに昨年リリースされた未発表曲集「Lost and Found」も最高です。参戦予定で未聴の方は是非。 

 

ドス・ソネス・デ・コラソネス with Tomomita Live Report

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今週は他の文章を用意していたのだが、急遽差し替え。先の日曜日、ちょっとしたご縁があり、あるキューバ音楽の宴にお邪魔してきました。場所は町田のメキシコ料理店ラ・コロニータ。美味しい料理を頂いた後に出演されたのが、ドス・ソネス・デ・コラソネス with Tomomitaさんでした。

実は失礼ながら全く予備知識もなく行ってしまったのですが、ボーカルのMakotoさんとギターのMuchoさんはSON四郎という日本のキューバ音楽界を代表するグループのメンバーでもあり、毎年キューバ大使館の後援でキューバの国際音楽祭にも出演されており、エリアデス・オチョアやファミリア・バレラ・ミランダ等とも共演されているというスゴい方々でした。

この日の会場は割と小さめだったのもあり、私は最前列で演奏を堪能。Makotoさんは絶妙なトークを交えながらスペイン語で美しい歌声を聴かせてくれ、Muchoさんの扇情と繊細を自在に操る見事な指遣いには終始見惚れていました。

途中恐れ多いことに私にもクラーベスやマラカスを貸して下さったのだが、これが簡単そうに見えて実は凄く難しい。キューバ音楽のリズムは3-2や2-3という独特のもので、それを知った上で観ると、これを刻みながら歌っているMakotoさんやパーカッションのTomomitaさんがいかに凄いかを改めて実感した次第。

Buena Vistaでも演っていた”Chan Chan”や”Amor de Loca Juventud”や、有名な“グアンタナメラ”や”ベサメムーチョ”等も交えた贅沢なセットと名演に、場内はペアダンスなどで大盛り上がり。私も下手ながら女性方のお相手をさせて頂き、最後は皆でドンペリで乾杯。

MakotoさんとMuchoさんには色々なキューバのお話を聞かせて頂いたり、一緒に連れて行った娘のためにバースデイ祝いの曲を演奏頂いたり。お陰で本当に素晴らしい夜になりました。SON四郎とMakotoさんのCDも売って頂いたので、以来ずっとヘビロ中。素晴らしい音楽と出会いに感謝。


圧倒的なパフォーマンスに引き込まれます。Salud !

Buena Vista Social Club 「At Carnegie Hall」 (2008)





Disc 1
1. Chan Chan 
2. De Camino a la Vereda 
3. El Cuarto de Tula 
4. La Engañadora 
5. Buena Vista Social Club 
6. Dos Gardenias 
7. Quizás, Quizás 
8. Veinte Años 

Disc two
1. Orgullecida 
2. ¿Y Tú Qué Has Hecho? 
3. Siboney 
4. Mandinga 
5. Almendra 
6. El Carretero 
7. Candela 
8. Silencio

先日のハイチと同じカリブ海に浮かぶ美しい島キューバ。今年はこのキューバとアメリカの国交正常化交渉が話題になっており、先日遂にキューバのアメリカ大使館も再開したらしい。かつてのキューバ危機から続く冷戦時代の負の遺産を清算することができれば偉業である。

キューバには昔から固有の素晴らしい音楽がある。それを世界に紹介してくれたのが97年の「Buena Vista Social Club」だった。Ry Cooderが急遽集めたキューバの古参ミュージシャン達による至宝のような音楽は、後にWim Wenders監督の同名映画によって、ワールドミュージック史上空前の大ヒットとなった。

ここに参加していた面子はとにかく皆老練揃いだった。99年の映画が撮られた時点で、ボーカルのIbrahim Ferrerは72歳、ピアノのRuben Gonzalezは80歳、ギターのCompay Segundoに至っては何と92歳!そんな彼らが熟練の演奏を聴かせる。

今日取り上げたいのは、彼らが98年にニューヨークのカーネギーホールに出演した時の伝説のライブアルバム。これは2008年にようやくリリースされたものだが、何故10年もお蔵入りさせていたのか不思議な位素晴らしいものだった。ソンやグァヒーラ・ボレロなどの伝統音楽が、スタジオアルバム以上に生き生きとした演奏で繰り広げられる。特に女王Omaraの歌うM6の高揚感は感動的だし、M5で感極まって流す彼女の涙を拭うIbrahimの姿も思い出させる。愛すべき老演者達が強いお互いの絆から紡ぎ出す至宝のような音楽だ。

このように彼らがアメリカに入国することができたのは、当時比較的自由なクリントン政権だったからであった。しかし後のブッシュ政権になってからは両国間の往来は禁止され、このプロジェクトは頓挫を余儀無くされる。そしてそうしている間、悲しいことに2003〜2005年に主要メンバーが皆他界してしまうのである。

ちなみに今年の3月には未発表音源集「Lost & Found」がリリースされたが、これもまた素晴らしかった。毎年夏になると、こうした南国の音楽が心地良い。

★★★★★ 


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