OFFICIAL ORANGE
ハチ
リイシューレコーズ
2013-10-23





01 パンダヒーロー
02 演劇テレプシコーラ
03 リンネ
04 神様と林檎飴
05 結んで開いて羅刹と骸
06 沙上の夢喰い少女
07 病棟305号室
08 眩暈電話
09 マトリョシカ
10 白痴
11 ワンダーランドと羊の歌
12 遊園市街

昨年娘に教えてもらったボカロの世界だったが、実は私はそれ以前から1枚だけボカロのCDを持っていた。最近はめっきり行かなくなったが、かつては渋谷のタワーレコードに定期的に通っていた。国内最大級の膨大な品揃えを誇ることに加え、試聴機が数多く並んでおり、最新の音楽をチェックするには最適な場所だった。また店内にも常に良質な音楽が流れており、それを聴きつい衝動買いしてしまったことも少なくない。

このCDもそうした中の1枚だった。非常に勢いのある曲展開のロックサウンドと、めくるめくメロディ。実力のあるバンドだと思ったし、高音の女性ボーカルは少し電子処理しているが、普通に人間が歌っているものだと思っていた。最後の曲まで聴いた後で平積みの棚から1枚レジに持って行った。

後で知ったのは、このハチというアーティスト名は今をときめく米津玄師の別名であり、この音楽はバンドではなく彼がたった1人で宅録で作ったものであるということ。そしてこの歌もボーカロイドというソフトを使用しているということだった。これには驚いたものだった。

このアルバムは面白い構成を取っている。M1, M3, M5, M7, M9という奇数のマイナーコード楽曲と、M2, M4, M6, M8, M10といった偶数のメジャーコード楽曲が常に交互に流れてくる。これが聴き手を飽きさせない。

当時ニコニコ動画で発表されて有名な曲はマイナーコード楽曲に多い。一番有名なのはYouTubeでも視聴回数3800万のモンスターヒットとなったM9だろう。M1とM5も1000万を超える代表曲だ。とにかく奇数曲はどれもアップテンポでカッコ良いのだが、特にフックのあるギターリフが聴き所で、よくこれだけのリフを思い付くものだと感心してしまう。

一方でメジャーコードの偶数曲はあまり広く知られていないが、これも佳曲揃いだ。非常に煌びやかなメロディが飛び交い、音作りもメリーゴーランドのような楽しさだ。個人的なハイライトは突き抜けるような高揚感のM10だ。

歌詞は難解で一聴では理解し辛いが、よく読むとかなりシュールな内容になっている。動画もほとんど自分で制作しており、そのデザインや構成は秀逸。何とも多才な人である。しかもこの当時彼はまだ十代だったという。

ちなみにM5は和風な曲でアルバム中でも異色なのだが、私の娘も自分で動画を見つけて曲調を気に入り私にURLを送ってきた。しかしこの曲は動画も歌詞もまるで怪談のようで、今では娘は怖がってこの曲は聴きたがらない。

彼は他のボカロPと違い活動初期から歌うボーカロイドの名前もキャラクターも一切前面には出さずに自分の音楽だけで勝負していた。そこに彼のプロ意識があった。米津玄師という本名で活動を始めた以降を私は聴いていないので語ることは出来ないが、始めからこれだけの高い才能と意識を持っていれば、今の成功も当然だろうと思うのだった。