新装版 槍ヶ岳開山 (文春文庫)
新田 次郎
文藝春秋
2010-03-10





1. 序章
2. 出郷
3. 笠ヶ岳再興
4. 槍ヶ岳への道
5. 鉄の鎖
6. 飢餓と法難
7. 終章

私が北アルプスで最も好きな山は槍ヶ岳である。あの遠くからでも分かる尖峰が特徴的だ。その槍ヶ岳を開山した修行僧の話と聞けば当然興味があった。それが新田次郎と聞けば尚更だ。

主人公は播隆上人。富山の農民の出だったが、百姓一揆の際に誤って妻おはまを刺殺してしまったことを機に、仏の道を歩き始める。読む前は、この播隆があてもなく彷徨った末に槍ヶ岳に登ったという話かと思っていたが違った。槍ヶ岳開山とは周囲の期待を背負ってのことであり、その前にも笠ヶ岳再興という仏業も成し遂げていた。

この本を読んでいると仏教界への理解も深まる。地域のためと事業を推進する飛騨国本覚寺、厳しい戒律の摂津国宝泉寺、商魂逞しい山城国一念寺。全く方針の異なる各寺での経験を経て、播隆が自身の信じる仏の道を歩き続ける様子に好感が持てる。また図らずも名を上げていく様子が面白いが、その結果物語は思いもよらぬ展開をみせていく。

私には信心はないが、登山は悟りへ近づくことだと言う播隆の言葉には分かる気がした。