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先日上原ひろみさんのHiromi The Trio Project 「Spark Japan Tour 2016」のコンサートを観に行ってきた。

会場は東京国際フォーラムのAホール。ロック畑の人間にはこれまで縁のなかった会場だ。中に入ると予想以上に広い上に高低差がスゴい。私の席は2階席の後ろの方だったが、実際には7階の高さから3階のステージを見下ろしている形になる。場内は20~60代まで男女ともに幅広い世代で満席だった。

7時を過ぎて暗転し大歓声の中3人が登場。下手の黒いグランドピアノに赤いチェックのワンピースを着たひろみさん、中央の椅子にはベースのHadrien Feraud、上手のドラムセットにはSimon Phillipsが座った。

オープニングは最新作タイトルトラック”Spark”。静かなピアノのイントロから始まり、ピアノの上に置いてある赤いシンセサイザーを弾いた後に一気にテンポアップしたところにドラムとベースが重ね合わされる。CDで聴いていたよりも格段に迫力のある演奏に一気に引き込まれる。しかも音響が素晴らしい。もうこの最初だけで来て良かったと思わされた。

ひろみさんのピアノはとにかく凄まじかった。とてつもなく早い運指から流麗でメロディアスな旋律を紡いでいたかと思えば、急にパーカッシブに低音を弾き鳴らして攻撃的な音の壁を積み上げる。次々と展開し続けるその驚異的なプレイにこちらは唖然となっているのに、本人は本当に楽しそうに弾いている。腕を振り上げたり、頭を振り回したり、立ち上がったりしながら、表情も本当に豊か。この人ほど楽しそうにピアノを弾く人を私は見たことがなかった。小学生の娘を連れて来ている人を何人も見かけたが、その気持ちも良く分かる。

実際あそこまで弾けたら本当に楽しいだろうと思う。それも最高のリズムセクションとプレイしていたら尚更だ。Simonはひろみさんとそれほど背も変わらない位で意外と小柄なんだなと思ったが、パワフルな上に手数が多い。何拍子なんだか良く分からない複雑なリズムを軽々と叩いていて、ひろみさんのピアノと息もピッタリ。先週も書いたが、この人はこんなに巧い人だとは知らなかった。また通常ジャズドラマーはレギュラーグリップが多いと思うが、ロック上がりだからかマッチドグリップなところが彼らしいなと思った。

Hadrienは6弦ベースの指弾き。6弦だけあって音域が広く、重低音を響かせてリズム楽器として鳴らしたり、ソロの時などはメロディ楽器として高音域を高速で弾いたり、幅広い役割を果たしていた。特にロックと違って邪魔なギターがない分、ベースが自由に動ける空間があり、ベース好きとして充分に堪能させてもらった。彼は元々若いイケメンイメージだったと思ったが、髭を生やしたせいでまるで別人のようにダンディだった。でもどこかでAnthonyのプレイも観たかった気もした。

2曲目に”Player”を弾いた後に、ひろみさんがマイクを持ってMC。「今回は世界中5大陸を回る、とてもマイルのたまるツアーになりました」に場内笑い。メンバーの紹介でHadrienは日本の寿司ざんまいが好きだと紹介すると、Hadrienが寿司ざんまいの社長のポーズで挨拶。Simonはビール好きで、日本に来たらいつも生中と頼むのだそう。

セットリストは基本的には最新作からがメイン。3曲目に比較的静かな”Take Me Away”、続いて少しオールドタイムな雰囲気の”Indulgence”、そして各人弾きまくりの”Dilemma”。聴いていて思ったのは、各曲中間部は結構オリジナルとはアレンジを変えてきているということ。メインリフでスタートとし、中間部にはインプロなソロを入れて見せ場を作り、最終的に再度メインリフに戻ってくるという構成。そんな自由なところがジャズの楽しさなのだと知った。

ここまで1時間15分ほど演奏したところで15分休憩。トイレと喫煙所はスゴい混みようだった。後半はまずSimonが1人だけで登場してきて叩き始めた。そして他の2人も出てきて”What Will Be, Will Be”。ひろみさんは今度は白いワンピースに着替えている。この曲はまたシンセサイザーが登場しアクセントになっている。Simonの音階ドラムが歌うような”Wonderland”が演奏された後、SimonとHadrienが下手へと引っ込む。

1人になったひろみさんがマイクを手にして、ソロ曲”Wake Up And Dream”の曲紹介。6歳でピアノを弾き始め、子供の頃から人前で演奏することを夢見てきたエピソードを話し、「夢を叶えてくれた皆様に感謝致します」と深く頭を下げた。そんな彼女の誠実さに感動したが、実際にその夢を実現は彼女の自身の努力と才能による必然的な結果であると思わずにはいられなかった。そうして始まったこの曲のプレイは、それまで聴いたことのなかったような静かなタッチで、優しさと繊細さに溢れていた。しかし面白かったのは、てっきりクラシックだと思っていたこの曲ですら、中間部はアレンジをしてきており、やはりこの人はジャズなんだなと感じた。

かなり長めのSimonのドラムソロをフィーチャーした”In Trance”では改めて各人の超絶プレイを披露して、大歓声のうちに本編終了。観客の拍手が見事に揃ったアンコールに応えて3人が再登場。Simonとひろみさんがピアノを叩いて”All’s Well”イントロクラップのリズムを鳴らす。アンコールの手拍子からつながりやすかったはずだが、リズムが難しいため場内なかなか揃わないのはご愛敬。最後の曲はリラックスした雰囲気の中で楽しげに演奏されて、全てのセットが終了した。最後は大歓声の中3人肩を組んで挨拶。この日初めて観たジャズの公演だったが、自分にとって新しい世界が開かれた気がした。そんな機会をくれたひろみさんに感謝。

1. Spark
2. Player 
3. Take Me Away
4. Indulgence
5. Dilemma
~break
6. What Will Be, Will Be
7. Wonderland
8. Labyrinth
9. Wake Up And Dream
10.In A Trance
~encore~
11. All's Well