最近はインターネットの普及により、音源をiTunesなどからダウンロードしてポータブルプレイヤーで聴くのが一般的になってしまった。これにより確実に失われつつあるものの1つがジャケット文化である。以前LPレコードからCDへ移行した際にも、ジャケット愛好家たちはそんな小さくなってしまっては味気ないと嘆いたものだった。今やCDさえも売れなくなってしまったため、そのジャケット自体が失われようとしている。

かつてMTVもプロモーションビデオもなかった時代は、ジャケットはアーティストにとって視覚的に自己表現する数少ない場であった。そしてレコードショップでは視聴もできないため、リスナーは知らないアーティストでもそのジャケットを頼りに購入したものだ。しかし今やそんな「ジャケ買い」という言葉すら死語になってしまっているのだろう。

今日は温故知新として、かつての素晴らしいジャケットたちの中から特に私が好きなものを取り上げてみたい。


① <Scenery>
思わず息を飲む景色というのがある。私は風景画が好きで、Ansel Adamsなどの写真集もよく眺めたりした。また昔は自分でもよくカメラを持って車に乗ってはあちこち撮りに回ったものだった。そんな風景画ジャケットの特にお気に入りを少しだけ。



Pearl Jam 「Yield」 (1998)

シアトル発グランジバンドは今やアメリカを代表するバンドとなった。これは当時思わずジャケ買いした1枚。荒涼とした風景の中で、地平線まで真っすぐ伸びるアメリカのフリーウェイが堪らない。こんな道を車やバイクで何も考えずに走りたいといつも思っている。



Dave Matthews Band 「Under The Table And Dreaming」 (1994)

これも大陸的なロックを鳴らすアメリカの代表的なバンドのデビュー作。夕暮れに映える観覧車の幻想的な時間を切り取った一葉。構図も色合いも完璧。



Yes 「Fragile」 (1972)

イギリスのプログレバンドYesの名盤。名画家Roger Deanの代表的な一枚でもある。風景画とは少し違うが。「こわれもの」というタイトルの元で壊れた地球の絵は、今のエコの時代にこそより意味を成す作品だろう。アナログでも部屋に飾っている。


② <Animal>
動物も自然が作り上げた最も美しいものの1つであり、ジャケットに取り上げられることも多い。私も娘が産まれるまでは、毎年干支にちなんだジャケットを編集して年賀状にしていたものだ。その中でも特に素晴らしい3枚。



Bob Seger 「Against The Wind」 (1980)

リアルタイムではなかったが、これもジャケ買いした1枚。70年代半ばからアメリカで人気あったロックシンガーBob Segarの傑作。私の知る中で最も優美なジャケット。「奔馬の如く」と訳されたタイトルも良い。



Tygers Of Pan Tang 「Spellbound」 (1981)

John Sykesが在籍したNew Wave Of British Heavy Metalのバンド。イギリスのバンドだがどこか日本的な美意識を感じさせるジャケットが印象的。



Rush 「Presto」 (1989)

最近急に評価が高まっているカナダのベテランプログレバンド。シルクハットから行列をなすウサギの大群に、可愛らしさやユーモアと同時に恐怖も感じさせる秀逸なデザイン。


③ <Artificial>
自然物だけでなく、人工物にも美しいものは数多い。建築物、アート作品、乗り物、家具、ツールなど様々あるが、それぞれ取り上げていくと大変な数になってしまうので、その中から3枚だけを。



Uncle Tupelo 「Anodyne」 (1990)

Son VoltのJay FarrarとWilcoのJeff Tweedyが在籍した伝説的なオルタナカントリーロックバンドの名盤。ギターにはいつも絵になる優美さがある。モノクロの色合いがいい。



Aerosmith 「Pump」 (1989)

アメリカのベテランハードロックバンドの中期の名盤。丸味がかったクラシックカーはそれだけでカッコ良く絵になる。しかもそれを大小2台重ねて別の意味を込めるところが彼ららしい。



Bad Religion 「Against The Grain」 (1990)

80年代から活動を続ける元祖メロコアパンクバンドの1990年の傑作。人工物にも色々あるが、これは決して美しくない人工物である。トウモロコシのように大量生産されるミサイル畑に強烈な風刺を見る。