私は普段仕事上東南アジアの諸国とやりとりをすることが非常に多い。シンガポール、タイ、マレーシアは特に重要な取引先であり、インドネシアやフィリピン、ベトナムから仕事をもらうことも少なくない。しかしそうした東南アジアにおいて、1カ国だけうちがこれまでビジネスの実績が全くない国がある。それがビルマだ。

現在のビルマの正式名称はミャンマーである。89年に軍事政権が支配して以来、国名をビルマからミャンマーに変えてしまった。同時に民主主義も剥奪され、経済発展からも取り残された。しかし国民民主連盟(NLD)の指導者アウンサンスーチー氏は、これを認めず旧表記を用いているので、私もそれにならうことにする。

そのスーチー氏を描いた映画「The Lady」がようやく上映された。監督はリュック・ベンソン、主演はミシェル・ヨー。この映画が描いているのは、彼女と家族の絆である。彼女にイギリス人の夫とその間に生まれた息子たちがおり、夫とは再会することも叶わぬまま死別したことは有名だ。しかしその夫が、妻のノーベル賞の推薦やビルマへの経済制裁を働きかけるなど、妻の政治活動を裏で支えていたことは初めて知った。そしてやはり、ごく普通の家庭を引き裂いた数奇な運命を受け入れ、国民のために戦い続けた彼女の強さは尊敬に値する。

この映画の撮影後にビルマの情勢は大きく変化した。テインセイン大統領が民政移管を推進し、スーチー氏をはじめ多くの政治犯が開放された。そして2012年4月の選挙ではNLDが大勝(ここを映画のクライマックスにしたかった)。今や世界経済界が開放されたビルマ市場に大挙している。大統領の目的が経済制裁解除とはいえ、これは大きな変化である。

毎日新聞にはスーチー氏の手記が毎月掲載されていた。他国の指導者や自身の部下の死を悼みながら改革への気持ちを新たにする彼女の手記を読むと、彼女の温かい人柄と鋼鉄の意思に触れることができた。彼女のそうした積年の想いが、今ようやく実現への歩みを進めているのを見ると、他国ながらも非常に喜ばしい限りである。

民族融和や憲法改正など、まだまだこの国には課題が山積している。しかしきっとThe Ladyとビルマ国民はそれらを乗り越えてゆくことと信じている。この映画の本当の意味でのハッピーエンドを見届けたい。