2012. 2. 16 @ Zepp Tokyo

Judas Priestが来日したが、当初見に行く予定は全くなかった。なんせ私は90年の「Painkiller」以降追っていなかったし、メタルのライブ自体行ったのは93年のMetallicaが最後だ。しかし今回が最後のワールドツアーということで、セットリストも往年の名曲のオンパレードだという。また近年のハードロック・ヘヴィメタル再評価の気運により、一般的な音楽誌・音楽サイトでもPriest来日の露出が多かった。私も思わずPriest特集が気になり17年振りにBURRN!誌を購入した。幸いZeppは私の職場のすぐ近く。ということで急遽思い立ち当日券狙いで仕事を早めに切り上げ行ってみた。

6時過ぎに会場に着く。今回は少し落ち着いて見ようかと思い2階席を取り中に入ったら、予想以上にガラガラの場内に驚いた。仕事帰りの人が多かったようで時間が近づくにつれ埋まってきた。時間になりBGMがAC/DCからBlack Sabbathに変わった頃には、すでに場内は凄まじい盛り上がりを見せていた。

客電が落ち大歓声の中、幕が落ち"Rapid Fire"がスタートした。スキンヘッドのRob Halfordがスタッドレザーコートにグラサンをかけ中央に立っている。その右には赤いレザーパンツを履いたGlen Tipton、さらに右手後方にベースのIan Hill、左手には加入した若いギタリストRichie Faulknerが立つ。後方の高い位置に据えられたドラムセットにはScott Travisがすわっている。

バックスクリーンに「British Steel」のジャケット映し出されると彼らのアンセム"Metal Gods"が始まる。会場は大合唱。「本物のHeavy Metalが聞きたいか?」というRobの問いかけに大歓声。続く"Heading to The Highway"でも大合唱。とにかく終始凄い盛り上がりだった。

メンバー全員水分補給のためなのか、かなり頻繁にステージ袖へ出たり入ったりしていたが、特にRobが毎曲終わるごとに引っ込んでいた。そしてその度にデニムベストやレザーコートなど衣装を替えて出てきた。何年か前の来日の時には、レザーコートのスタッドが重すぎたために体力を消耗してしまい、声が出なくなってしまったという話を聞いていた。なのでRobが重そうなスタッドレザーコートを着て出てくる度に気になっていたのだが、その心配は無用だった。結局最後までRobは驚異的なハイトーンボイスを聴かせてくれた。

今回のセットリストはこれまでRob在籍時の全アルバムから選曲されており、1st「Roca Rolla」の"Never Satisfied"などかなり珍しい初期の曲が演奏されていた。個人的に一番嬉しかったのは「Sin After Sin」からの"Starbreaker"。
また「Sad Wings」からの"Victim Of Changes"では綺麗なレーザーショーで魅せてくれた。バックスクリーンにはその都度それぞれのアルバムジャケットが映し出され、Robが「我々はこれまで何百曲ものメタルソングを作ってきたが、これは●年の●というアルバムの曲で~」と説明してくれていた。彼らにはそのように誇るだけの40年の偉大な歴史があるのを会場の誰もが知っている。

"Diamond And Rust"の前半の美しいアコースティックバージョンも初めて聴いたが感動的だった。Robも歌い上げのボーカルを聴かせてくれて、ハイトーンだけでないボーカリゼーションの巧さを改めて実感した。一方続く"Nightcrowler "では、切り裂くような鋭いリフと、怒濤の疾走感で駆け抜ける。ステージに向かって振り上げられた無数の腕を上から見るのは壮観だった。

それにしても豪華なセットリストなこと。「Defenders Of The Faith」から名曲"The Sentinel"。続くのは代表曲で合唱となる"Green Manilishi"。そしてRobのお約束の「Breaking the what!?」の問いかけから、彼らの代名詞"Breaking The Law"。どれもこれもメタル史における歴史的名曲ばかりである。

ライブ中私がRobの次に目で追っていたのは新人のRichieだった。今回のツアー前に戦線離脱したK.K.Downingの替わりに加入したわけだが、当初私は懐疑的だった。やはりK.K.とGlenのツインリードあってのPriestだったわけで、その片側がいなくなってしまってはライブに行くことすら躊躇われたのだ。しかし実際にRichieのプレーを目にしてそれは全くの杞憂であったことを知った。彼はテクニックに関しては言わずもがな、ライブ中終始観客を煽り盛り上げ、精力的に動き回り、バンドの良いムードメーカーとなっていた。皆還暦を越えたバンドの中にあって、彼の若さは良い刺激となっていたようだ。フライングVや白黒のレスポールなど持っていたギターやプレイの仕方からはRandy Rhoadsを思わせる一方で、ブロンドのイケメンは若き日のK.K.をも思わせた。

一方Glenは派手なアクションはないが、熟練のプレイを聴かせていた。長身の彼も還暦を過ぎているが、かつての色男の面影を残している。観客の盛り上がりには終始満足そうで、右手前方の観客に何度も近寄っては笑顔で手を叩いていた。

元々親父顔のベースのIanは一番歳を取ったなぁと感じた。上半身しか動かない鋼鉄神という呼び名を持つ彼は、その異名通りほぼ一歩も後方の定位置を動かなかったが、終始黒のベースを振り回しながら、どこか楽しそうだった。

Scottのドラムセットは「British Steel」のカミソリをあしらったツーバスのセット。彼は金属製?のスティックで叩いていたが、ライブ中何度もそのスティックを宙に放り投げていた。しかし今日は調子が悪かったのか、そのほとんどで失敗し取り損ねていた。私は普段ツーバスのライブを見る機会はないが、ドラムソロでのそのバスドラさばきには感嘆させられた。そしてそのまま"Painkiller"へと雪崩れ込む。Robの断末魔を始め、還暦を過ぎたバンドとは思えないほど驚異的な勢いで全員が一体となり駆け抜ける。流石にこの曲はキツかろう、Robは終始マイクに覆い被さりながら、絞り出すように叫んでいた。満身創痍で本編が終了した。

アンコール一発目は恐らく誰もが待ちわびたであろう"Hellion"の美しいツインリードをGlenとRichieが並んで奏で始めると、観客はそのフレーズを大声で合唱する。そしてそのまま" Electric Eye"へ。

二発目のアンコールでRobがお約束のハーレーに乗って左手から登場。シルバーのスポーツスターで、エンジン音が聞こえはしたが、スタッフが後ろから押しているところを見ると、恐らく実際はエンジンはかかってはいないようだった。Robはシートに腰かけたまま"Hell Bent For Leather"を歌う。

三発目のアンコールでは、Robが日の丸国旗を持って登場。国旗には「鋼鉄神 永遠也」と書かれていた。スタッフが用意したものかと思ったが、実際はファンが自作して手渡したものらしかった。その国旗をバイクに掛け、Robは観客をコール&レスポンスで煽る。そして合唱曲"You Got Another Thing Coming"と"Living After Midnight"で大合唱し終了した。

今回が最後の来日になるという話だったが、最新のインタヴューを読むと、実はそうではないようだ。大規模なワールドツアーはこれが最後だが、単発のライブは今後も続けていくのだという。それでも私は、今回最後だという話がなかったらこの素晴らしいライブを見逃していただろうと考えると、逆にその誤った触れ込みに感謝したいくらいだった。

01.Rapid Fire
02.Metal Gods
03.Heading For The Highway
04.Judas Rising
05.Starbreaker
06.Victim Of Changes
07.Never Satisfied
08.Diamonds And Rust
09.Prophecy
10.Night Crawler
11.Turbo Lover
12.Beyond The Realm Of Death
13.The Sentinel
14.Blood Red Skies
15.The Green Manalishi(With the Two Pronged Crown)
16.Breaking The Law
17.Painkiller
Encore1
18.The Hellion~Electric Eye
Encore2
19.Hell Bent For Leather
Encore3
20.You've Got Another Thing Comin'
Encore4
21.Living After Midnight