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ライ・クーダー

ワーナーミュージック・ジャパン 2011-09-21
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ニューヨークで勃発したデモは、今や全米に飛び火した。なかなか改善されない失業率や経済不況などに業を煮やした米国民の不満がここに来て噴出したようである。そんな不満をデモに先行して代弁していたのが、このRy Cooderの新作だったのかもしれない。

これは3年ぶりの新作だが、ここのところ彼は本当に活動的である。作品もコンスタントに発表してくるし、合間にもサントラやプロデュースも手掛け、2009年にはNick Loweと来日も果たしている (残念ながら見に行けなかったが)。個人的にはカリフォルニア三部作はどれも力作だったと思うし、愛聴していた。それに比べて今回は特にストーリーはないし、ジャケットも地味だったのでどうなのだろうと思っていたが、なかなかどうして素晴らしい出来映えであった。

今回のテーマは言ってみれば政治経済。彼の視点はいつも弱者の立場に立っているが、今回もそうした視点から経済格差を生んだ金融政策や移民法などを糾弾している。しかしそれがあまり押し付けがましくならないのは、そうしたシリアスな歌詞をあえて明るい曲調に乗せていたり、John Lee Hookerを大統領に推薦しているM10のように独特のユーモアセンスに包んでいるからだろう。

また楽曲もバラエティに富んでおり、ストレートなロックあり、テックスメックスあり、カントリーブルース、R&B、レゲエ調、バラッドなど幅広い。今作は特に曲が良く、全体的に明るく軽快な楽曲群と合間に挟まるバラッドのバランスが良い。昔はカヴァーばかりだったのと対照的に今は自作曲ばかりだが、模倣から吸収してオリジナルの境地に立ったかのようだ。

相変わらず彼のギターの音色とボーカルも味わい深い。バックにはお馴染みフラコヒメネスのアコーディオンや息子ヨアキムのドラムが支え、また曲によっては男性ゴスペル隊のコーラスやホーンセクション、M8ではJim Keltnerが共作とドラムで華を添えている。欲を言えばもう少しスライドを聴かせてほしかったが。

それにしてもRy Cooderという人は本当に多才な人だと思う。長いキャリアの中で、ギタリスト、シンガーソングライター、ルーツ音楽探求家、民族音楽探求家、プロデューサー、映画音楽家など様々な肩書きを持つに至り、それらの仕事すべてに素晴らしい功績を残している。何よりも彼の場合、それらを仕事としてではなく、一人の音楽ファンとして携わっているという姿勢に好感が持てるのである。

近いうちにまた今度は是非単独での来日をお願いしたいところである。

★★★★