NHKブックス(1071) ロックを生んだアメリカ南部 ルーツミュージックの文化的背景NHKブックス(1071) ロックを生んだアメリカ南部 ルーツミュージックの文化的背景
ジェームス・M. バーダマン 村田 薫

日本放送出版協会 2006-11-29
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プロローグ すべてはふたりのキングから生まれた
第1章 黒人音楽はエルヴィスの中に焦点を結んだ
第2章 ブルースマンの悲痛な叫び ― ミシシッピー・デルタの混淆から
第3章 都市をゆりかごに生まれたジャズ ― ニューオリンズの坩堝から
第4章 ゴスペル 魂の高揚 ― 信仰と教会、そしてアフリカの匂い
第5章 カントリーの故郷はどこか ― オールドアメリカへの郷愁
エピローグ 都市という荒野で歌うディラン

先週のLevon Helmは生粋の南部人だったわけだが、そうした南部に興味を持った時に、ちょうどいいのが本書だった。ブルース、ジャズ、ゴスペル、カントリーといったアメリカ南部を起源とするそれぞれのルーツミュージックの発祥やその背景について、バランスよく解説してくれている。ともすれば、それぞれのジャンルだけで膨大な文量になってしまうところを、簡潔にまとめてくれているのが入門編としてとても入りやすい。しかし克明な事実と深い洞察にも溢れている。

黒人音楽を紐解くには、まずは彼らの奴隷としての歴史を知らねばならない。アフリカから連行されてきた多くの黒人奴隷は、アメリカ南部のプランテーション開墾などの労働に従事させられていたが、その生活の苦しさは筆舌に尽くしがたかった。それは南北戦争後の奴隷解放宣言によっても状況は変わらず、結果的に人種分離法ジム・クロウや、KKKらによる暴虐など、むしろ状況は悪化していた。

特にミシシッピ河岸に広がる肥沃な泥湿地デルタは象徴的だった。悪名高いパーチマン刑務所が設立されたのもこの地域で、James K. Vardamanミシシッピ州知事によって設立されたこの刑務所は、規律に従わなければ容赦なく射殺され、黒人囚人にとって奴隷制以上の地獄として知られた。

こうしたデルタの地獄から逃れようとした流浪の民が奏でたのがブルースであり、また救いを求め通ったプロテスタント系のバプティスト教会で祈りを捧げるための霊歌が発展したのがゴスペルである。

一方で全米で唯一ある程度黒人の自由が認められていた街がニューオーリンズであった。ここには様々な人種や移民が混在したことから、多様な文化が生まれた。彼らは観衆を惹き付けようと、様々な楽器を持ち寄りコンボを組み修練を重ねた。これがジャズへとつながった。

黒人たちはやがて自由を求めて大陸を北上していく。それに伴いこうした黒人音楽もシカゴという都市で新たな発展を遂げていくことになるのだった。

唯一カントリーだけが白人音楽のように見えるが、これも黒人音楽の影響を受けている。アパラチア山脈に伝えられたアイルランド・スコットランドを起源とするバラッドが、新たな音楽の刺激を受けながら発展し、カントリーへとつながっている。これも苦しい生活を余議なくされた民衆が生きる糧として紡ぎ出した芸術であるという点において共通している。

最後に本書の著者はJames M. Vardaman氏であるが、実は彼は先のパーチマン刑務所を設立したミシシッピ州知事のひ孫にあたる。これは決して偶然ではないだろう。恐らく著者はこの事実を知り苦悩した結果、本書を執筆する動機となったことと推察する。なのでこれは必然なのだ。これらの音楽が南部から生まれてきたのと同じように。