卒業文集への寄稿より(一部改訂)

 私の知り合いにジャズプレーヤーのMさんという方がいらっしゃいます。ピアノやウッドベースを長年弾いてこられた方なのですが、この方が初めてレコーディングしたのがこの「若者たち」という曲でした。今から45年前の1966年に、あの黒澤明監督のご自宅で録音されたそうです。この時Mさんはまだ高校生だったそうですが、当時はウッドベースを弾ける人があまりいなかったため、お鉢が回ってきたそうです。

 1960年代、当時の若者たちは学生運動を通して社会に対して変革を叫んでいました。その後社会へ出てある者は会社へ就職し、ある者は起業し、会社のため、家族のため、日本のために、汗水を流して働き続けました。こうした彼ら団塊の世代の汗水が日本に高度経済成長をもたらすことになったのです。

 今日本は新たな局面を迎えています。今月11日におきた東日本大震災によって、かつて経験したことのない苦境に立たされました。大地震と大津波により多くの人達の尊い命と家が奪われ、その後の原発事故によりさらに多くの人達の生活がおびやかされています。しかしこうした苦境の中でも、人々は助け合い気遣い合いながら、少しずつ復興しようとしています。恐らく元通りに戻るまでは長い年月がかかるでしょう。それでも決してあきらめてはいません。

 これから卒業をして社会へと旅立つ皆さん。今日本は君たちの力を必要としています。もう一度自分に何ができるのかを考えてみてください。そして自信を持って一歩を踏み出してください。自分以外の誰かのためにできることがきっとあるはずです。家族のため、友人のため、お客さんのため、地域のため。それがきっと君たちにとって生きる意味となり、生きるエネルギーとなるでしょう。そのエネルギーが自分自身を、ひいては社会を変えていくことになると思います。

 先のMさんらの作ったこの曲は当時の多くの若者を勇気づけました。そして今では音楽の教科書に掲載されています。

  君の行く道は 果てしなく遠い
  だのになぜ 歯をくいしばり
  君は行くのか そんなにしてまで

  君の行く道は 希望へと続く
  空にまた 日が昇るとき
  若者はまた 歩き始める