ボブ・ディラン自伝ボブ・ディラン自伝
菅野 ヘッケル

ソフトバンククリエイティブ 2005-07-16
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 コンサートの興奮が冷めやらず、以前から読みたかった自伝にようやく手を出した。Bob Dylanについての伝記本はこれまで多く出版されてきているが、この2005年に出版された自伝は当然のことであるが彼自身の言葉で書かれている。そこが重要である。

 1941年にMinnesota州Duluthの中流階級に生まれ育った後、単身New Yorkに出てきて下積みをするのだが、そうした苦労した時代の回想が読めるのは非常に興味深い。Woody GuthrieやHank Williams、Robert Johnsonといった巨匠たちに感銘を受け、ジャズやブルースやカントリーなど様々な音楽に対して深い造詣を持ちながらも、フォークという音楽に強い拘りと信念を持っていたことが印象に残る。(死の直前のWoody Guthrieに会っていたというのも興味深かった。) そして社会情勢に対しても深い洞察を持っており、それがプロテストフォークという形を取ることが、至極当然の流れであったことが分かる。

 やがて伝説的なA&RマンのJohn Hammondによって見出されデビューに至るわけだが、その後瞬く間に時代の代弁者として祭り上げられることになる。ここではその当時については詳しく述べていないが、後年バイク事故による隠遁期にそれを振り返って、自身を「プロテスト王子」とする世間の扱いに対して当惑や怒りが率直に表現されており、Bob Dylanもやはり一人の人間なのだということを伝えている。

 また本書は一気に時間をまたいで、「Oh Mercy」制作の過程についても触れている。プロデューサーDaniel Lanoisとの意見相違もあったようだが、Dylanは曲を構築していく中で、楽器のサウンドを色々付け加えていくよりも、むしろボーカルを際立たせて歌詞のメッセージを伝えていくということに重きを置いていたことが分かる。それはフォーク期から変わらない表現者としての拘りだったのだろう。

 本書が触れている時期はそれぞれかなり飛び飛びになっているのだが、願わくばこの自伝でデビュー後やフォークからロックへの移行期の頃についても触れてほしかった。しかしこの時期はきっと彼自身も触れたくなかったところなのだろう。ひとまず本書の原題が「Chronicles Volume One」となっているので、「Volume Two」が出版されることを期待したい。