Bob Dylan
2010.3.26 (Fri.) @ Zepp Tokyo

 実は先月Bob Dylanの来日公演にも行ってきていた。他のブログさんもこぞってコンサートレポートを挙げていた中で、アップが遅くなってしまったのは他でもない、無職の気まずさから嫁に内緒にしていたからである。

 チケット争奪戦に敗北し、一時は完全に諦めていたBob Dylan。しかし当日券が出るとの噂を聞き、仕事を無理やり午後半休を取りZepp東京に向かった。小雨降る寒空の下、5時から販売するというチケット売り場に4時前から並び、奇跡的にチケットを入手した。

 私のDylan歴はまだ浅く、まだまだ初心者である。ベストに入っているような代表曲くらいは以前から知っていたが、それ以外は60年代と近年くらいしかまだちゃんと聞いていない。そのため今回の来日に果たして行く資格があるのだろうかなどとも考えもした。しかし以前の来日が9年前だし、御大ももう68歳になる、次があるとは限らない。さらには今回の公演は海外でも類を見ないスタンディングホールでの公演である。これを逃したら恐らく一生後悔するだろう。ということで参戦を決意した。

 会場の年齢層は先日のSimon & Garfunkelのようにかなり高いかと思いきや、20台から60台まで幅広く、若いファンや女性も意外に多かった。そして期間中何度も足を運んでくるような熱狂的なファンが多いようだった。それは公演ごとにセットリストを大きく替え、何が飛び出すか分からないというところが、何度もファンの足を運ばせるようであった。

 今回のツアーグッズは色々出ていた。Tシャツ各種、ポスター、フォトブック、そして目玉商品はこれまでリリースされた全アルバムのジャケットで包装されたチロルチョコセット。買おうかと迷ったが、保存できるか分からなかったので見送った。

 御大はステージにほぼ時間通りに登場。上下黒のスーツにツバ広の鳥打帽子といういつものスタイルに今日は緑色のシャツを着ている。写真では見ていた格好だが、実際に見るとやはりカッコいい。私は正面右ドアから入った5列目くらいのステージまで約20mという位置。歴史上伝説の男が目の前にいるという事実に、いまいち現実感がない。これまでこんな大物のコンサートは大抵東京ドームのような座席指定の大型会場で、なかなか立ち上がらない周囲の平均年齢の高い観客にイライラするというように、相場は決まっていた。しかし今回はスタンディング、前の男性の頭がステージ中央を遮っているのには少しイライラさせられるが、この距離と臨場感はなかなか得難いものがある。

 御大は基本的には右端のキーボードの位置におり、時に曲のアクセントとして、時にバンドを煽るように鍵盤を弾いていた。また曲によってはステージ中央に出てきてダミ声で時に優しくつぶやくように、時に力強く吐き捨てるように歌っていた。そして情感たっぷりのハーモニカも披露してくれた。またステージ右端のDylanがいる後ろに台があり、その上には噂のオスカー像が置いてあった。彼は曲を終えるたびにその像に近づいては手をかざしていたのが印象的だった。

 バックバンドのメンバーは、ペダル・スティールのDonnie Herron、ギターのCharlie SextonとStuart Kimball、ベースのTony Garnier、ドラムのGeorge Recile。その中でやはりCharlieは助演男優賞。Dylanが中央にいない時は彼が中央におり、時にしゃがんだり、時にDylanに寄って目を合わせながらインタープレイを決めていた。Tonyはイブシ銀のプレイで低音を響かせてくれており、2曲だけウッドベースも弾いていた。Donnieは牧歌的なカントリー色を加味してくれていたが、Dylanに合わせて笑顔で頭を振ったりとプレイはノリノリだった。

 結局この日Dylanがギターを持ったのは”To Make You Feel My Love”の1曲のみ。バックの黒いカーテンにギターを持つシルエットが映し出されたところや、Charlieと並んでユニゾンを決めるところが、何ともカッコ良かった。この曲を知ったのはBilly Joelのバージョンの方が先だったが、本当に心に染みる名曲である。

 Dylanのライブは曲当てクイズのようなものである。それは彼が往年の楽曲の歌メロを全て無視しながら、しゃがれたダミ声でつぶやくように歌うためである。さらにはバンドの演奏も原曲とは全くアレンジが異なる。こうなると頼りは歌詞しかなく、サビの歌詞を聞き取れて初めて、あぁこの曲だったのかと判別ができるのである。セットリストは今日も全然違っていた。一応ブートを聞いて予習していたのだが、それもほとんど参考になっておらず、今日はアルバム「Love And Theft」から特に多めに演奏されていた。

 本編が終了すると、ステージセットの後ろに、突然おどろおどろしい王冠をかぶった目玉が描かれた垂れ幕が掲げられた。初めて目にする人は一様に「何だアレ?」といぶかしんでいた。アンコールは”Like A Rolling Stone”で始まり固定のようだった。続く”Jolene”の後で、この日初めてのDylanのMCによりメンバー紹介が行われる。

 最後は”All Along The Watchtower”で締めだと思っていたら、Donnieがフィドルを持って登場し、”How many roads ~♪”と始まった。ここで想定外に”Blowing In The Wind”だった。この曲は個人的に学校の授業でも使わせてもらった最も好きな曲。本音を言えば、この曲は原曲通りアコギの弾き語りで聴きたいところである。しかしこのアレンジが今の“Blowing In The Wind”であり、今のDylanなのである。コンサート全編を通して、ブルースロックやカントリーロック、ノリノリのRock & Rollや、時にかなりハードな演奏もあったが、総じて感じたのはBob Dylanはフォークなどではなく、とにかくロックであるということだった。特に50年の長きに渡り体現してきたアメリカンロックいうものが今回の演奏の重みに表されていた。

 全てのセットリストを終えた面々はステージ中央で横一列に背の順で並び、お辞儀もせずに数秒間立っていた後、そのまま手も振らずに去って行った。噂には聞いてはいたが、いかにもDylanらしい退場の仕方であった。

 さて例によって聴きたかった曲を挙げるとキリがないのだが、”The Times They Are A-Changin'”、”Desolation Row”、”Knocking On Heaven’s Door”、”All Along The Watchtower”、”Hurricane”、”Forever Young”、“Workingman’s Blues #2”は特に聴きたかったところだ。他の日にも演奏していたものもあったようだが、それはまたの機会に。

今回私は伝説を目の当たりにしたのだが、あの元気さなら70歳を越えてもまた来てくれそうな気がしてきた。その時は願わくはギターを下げて登場してほしい。

セットリスト  (boblinks.comより転載)
1. Leopard-Skin Pill-Box Hat
  (Bob on keyboard, Donnie on lap steel)
2. Lay, Lady, Lay
  (Bob center stage on harp)
3. Just Like Tom Thumb's Blues
  (Bob on keyboard and harp, Donnie on lap steel)
4. Every Grain Of Sand
  (Bob on keyboard then center stage on harp)
5. Summer Days
  (Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)
6. Sugar Baby
  (Bob center stage on harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar,
   Tony on standup bass)
7. Tweedle Dee & Tweedle Dum
  (Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)
8. Make You Feel My Love
  (Bob on guitar, Stu on acoustic guitar)
9. Honest With Me
  (Bob on keyboard, Donnie on lap steel)
10. Po' Boy
  (Bob on keyboard and harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar,
   Tony on standup bass)
11. Highway 61 Revisited
  (Bob on keyboard, Donnie on lap steel)
12. I Feel A Change Comin' On
  (Bob on keyboard, Donnie on lap steel)
13. Thunder On The Mountain
  (Bob on keyboard, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar)
14. Ballad Of A Thin Man
  (Bob center stage on harp, Donnie on lap steel)

(encore)
15. Like A Rolling Stone
  (Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)
16. Jolene
  (Bob on keyboard, Donnie on lap steel, Tony on standup bass)
17. Blowin' In The Wind
  (Bob on keyboard then center stage on harp, Donnie on violin)