ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実 <新装版>ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実 <新装版>
奥田 祐士

白夜書房 2009-09-09
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 先週、EMIが経営難のためロンドンにあるアビーロードスタジオを売却するというニュースが報道されていた。アビーロードスタジオと言えばThe Beatles。デビュー以来ほとんどのアルバムをここで制作している。これに対しPaul McCartneyはスタジオを救いたいというコメントを話しているが、ここに所属していたサウンドエンジニアたちもきっと同様の想いだろう。

 本書はそんなアビーロードスタジオ(当時はEMIスタジオと呼ばれていた)でThe Beatlesを担当していたエンジニアGeoff Emerickによる回顧録である。昨年大枚をはたいて購入したリマスターボックスを、せっかくだから十二分に堪能したいと思っていたところに、うってつけだったのが本書だった。「Revolver」から「Abbey Road」までThe Beatlesのレコーディング現場にいた唯一のエンジニアが語るThe Beatlesサウンドメイキングのすべて、とキャッチコピーには書いている。しかし、それは正式なエンジニアとしてということであって、事実は本書にも記載されているように、デビューアルバムからその制作現場に彼はいたのである。そのため本書はほとんどのThe Beatlesディスコグラフィの裏側をつぶさに教えてくれる。各アルバムの各曲が完成に至る過程で、どのような試行錯誤がなされていたかが事細かに描写されている。「St. Pepper」セッションではメンバーとプロデューサーGeorge MartinとGeoffがチームとなりながら、レコーディングに工夫を重ね原曲にアレンジやオーバーダビングを行ったことで名曲の数々が誕生して様子は痛快である。一方で「White Album」でメンバー間やスタッフとの人間関係の崩壊の様子は悲しい。

 また本書はメンバーそれぞれのパーソナリティについても細かく描写している。Paulについては、細やかな気遣いができるプロフェッショナルだが完璧主義者であるとしている。一方で、Johnは良くも悪くも感覚的な天才肌、Georgeはギターのあまり巧くない気難しい男、Ringoは自信喪失屋、として描写されている。これがそれぞれのファンにとっては不満に感じられるかもしれないが、恐らくこれも事実なのだと思われる。

 著者がアビーロードスタジオに勤務を始めたのがわずか15歳、「Revolver」を担当した時も19歳だったというから恐れ入る。彼がThe Beatlesを担当できたのは、運の巡りもあったろうが、やはりPaulやJohnと同様にそのスタジオにおける天才的な発想力があってこそだったろうと思う。



本書のハイライトの一つ。アビーロードスタジオから世界中に生中継された"All You Need Is Love"の公開レコーディング。冒頭にチラッと出てくるのがGeorge Martin。