翌日は最終日。遂にイルカに会いに行く。早朝に漁船に乗り、隣島の御蔵島を目指す。この御蔵島、日本で唯一野生のイルカが生息している島としてダイバーにも有名である。ただしアクセスが楽ではなく、漁船で片道1時間の船旅に耐えられるかどうかが鍵となる。この日は曇り、最初は船旅を楽しんでいた生徒たちから、徐々に笑顔が消えていき、何人かはビニール袋か船の外に顔を投げだす。1時間後、絶壁に囲まれた島が近づいてきた。

島の周囲をゆっくり回っていると、突如船長が叫んだ。「いたぞー!」 見ると海面に三角の背ビレが4~5つ、ゆっくりと固まって動いている。これを合図に動ける者たちは、急いでフィンを履き、マスクとシュノーケルを装着する。そしてインストラクターに続いて一人ずつ勇気を出して海面に飛び込んでいった。水面から海の中を覗くと、海底ははるか下に見える。水深20~30mほどだろうか。幸いウェットスーツを着ているから溺れる心配はないが、泳ぎに自信がない子は、これに少しひるむ。

海中を覗きながら、インストラクターの進む方向に皆必死に泳いでいく。すると「キューン」という甲高い鳴き声とともに、前方から先ほどの背ビレの主たちが悠然と眼下を泳いできた。1匹2~3mくらいだろうか、水上で見えた背ビレから予想するよりも大きく見える。ここで何人か技術のある者たちは、ジャックナイフを試みた。息を止め、海中深くへ潜り、イルカたちに近づく。しかしイルカの水深まで潜れるのはインストラクターくらいで、彼だけ魚のように泳いでいき、イルカの群れに合流していた。

水面に上がった生徒たちは興奮気味だった。「いたー!」「すげー!」 マスクをはずして叫んでいた。しかしのんびりしている暇はない。次の群れを探すために、船に戻る。そして船のへりにまたがって、また船長の合図があるまで待つのである。結局全部で10本くらいダイブしただろうか。この日は数十頭のイルカに対面することができ、しかも彼らの機嫌が非常に良く、我々の本当に近くまで来てくれた。よく心に邪心があるとイルカに近づくことはできないと言われるが、手が届きそうなところまで近付けた今年の私の心は、きっと去年よりも澄んでいたのだろうか(笑)

1本のダイブはかなり体力を消費するため、10本のダイブを最後まで全て飛び込んだのは、2人の男子生徒と1人の女子生徒と私くらいのものだった。しかし今回参加した生徒は、とりあえず全員1回以上はイルカに対面させることができた。船に酔って最初動けなかった生徒も、浮き輪などを使って飛びこませ、何とか体験をさせてやれたことが、我々の一つの達成であった。

しかしこの後に試練が待っていた。1時間ほどのダイブを終えて三宅に帰る船旅は、凄まじいものだった。予想以上に風が強くなり、波は荒れ、船の揺れを大きく増幅させていた。前後左右に大きく揺れ続ける船から振り落とされないように、全員甲板にしがみつき、弾丸のように飛んでくる波の水しぶきの痛さに耐え続けなければならなかった。胃が空っぽになるまで吐き続け、体温はどんどん下がっていき、動く気力も余裕もなく、それぞれ"生きてるか?"とお互い目で合図をするのが精一杯だった。その様子はさながら、アフリカから連行されて大西洋を航海した黒人奴隷船のようであった。永遠に感じられた1時間の帰路の末、「もうすぐだぞー!」という叫び声に促され、目をやった先に三宅島の陰影が見えた瞬間に、生徒と交わしたガッツポーズとピースサインが印象的だった。

三宅に到着した際には、喜ぶ者、泣き出す者、ボロ雑巾のようになり自力で動けない者など、様々だったが、一旦宿に帰り、温かい風呂に入れさせた後には、ようやく全員に笑顔が見られ、私たちもホッとした。

今回の旅では、大自然の大きさをまざまざと見せつけられた。自然は荒々しさと美しさの両面を持っており、それぞれがあるからこそ、その両面が際立つ。そうした大自然の前では人間などは何てちっぽけな存在だろうか。そんなことを考えながら、帰りのフェリーの甲板に立ち、少しずつ遠くなる三宅島を眺めていた。