「江戸百名山図譜」

江戸百名山図譜
住谷 雄幸
小学館
1995-10


日本の山岳画を遡る過程で見つけたのが、谷文晁の「日本名山図絵」でした。谷文晁(1763-1840)は江戸時代後期の文人画家で、当時の老中松平定信に随行し全国の山水画を残しています。「日本名山図絵」はそうした文晁が全国の名山88座を描いたものでした。

なかなかお目にかかる機会がなかったのですが、本著でその全作品を拝むことが出来ました。彩色のないシンプルな木版画なのですが、どの山もどっしりと構えた迫力のある作品となっています。

本著ではさらに12座を加えて、江戸百名山として紹介しています。まず気付くのは、深田久弥の「日本百名山」とはだいぶ異なり、箱根峠や鋸山など低山も多く選定されていること。その理由は修験道など信仰の対象であったり、人里に近かったりと、当時の人々の生活に密着した山である点です。

ここでは文晁の絵とともに、それぞれの山の江戸期以前の登山記録も収録されています。上人の開山に始まり、学者や儒者の登山の様子が原文で記載され、若干読み辛さはありますが、今とは異なる当時の山の様子をタイムスリップした気分で味わうことが出来ます。

文晁の絵を愉しむだけでなく、日本の山々の登山史を知るにも興味深い一冊です。

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創立82周年 日本山岳画協会展

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創立82周年 日本山岳画協会展が東京交通会館で開催されていたので観に行って来ました。

日本山岳画協会は、1936年に足立源一郎氏や丸山晩夏氏、吉田博氏ら錚々たる山岳画家によって創立されています。その名の通り日本の山岳画の最高峰です。

この日会場には24名の協会員の先生方の全部で68作品がずらりと並んでいました。槍穂高や剣などの北アルプスを始め、八ヶ岳・妙義山など国内の名山の数々、ヒマラヤやヨーロッパアルプスなど海外の山々もありました。油彩画、水彩画、木版画、ペン画など表現方法も様々で、画風も様々。緑柔らかな山麓風景から、荒々しい岩雪の山頂風景まで、それぞれ見事な山岳画の数々に時間を忘れて見入ってしまいました。

長いこと場内をうろちょろさせて頂いている間に、いらっしゃった画家先生方にも色々お話を伺うことが出来ました。やはり山々に対する長年の歴史と想いは並々ならぬものがあり、特にY先生の終戦直後の焼け野原に見えた富士山のお話や、T先生のマッターホルン登頂のお話は鮮烈でした。

私のような山岳画を好きな者にとっては正に夢のようなひと時でした。帰ってからも購入した画文集を眺めて愉しんでいます。感謝々々。

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孤独の風景画家 フリードリヒ

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今日は先週のターナーと同じ時代に生きた風景画家フリードリヒについて取り上げたいと思います。

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(Casper David Friedrich, 1774-1840)はドイツの画家です。ターナーと同様にロマン主義に属しましたが、ターナーが当時からイギリスで高い評価を受けていたのとは対照的に、フリードリヒは孤独な生涯を送りました。

フリードリヒの作品が一般的に受ける印象はとにかく暗い。彼は子供の頃に弟が自分の身代りに湖で溺死するのを目の当たりにしています。さらに母や姉の死も重なり精神的に病み、これがその後の画風に影響していると言われています。

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広がりのある荒涼とした風景がダークな色彩で表現され、十字架や墓が配されていることも多い。人物が描かれることもありますが、皆こちらを向いていることはなく、あくまでも風景の一部となっています。彼の「画家は自分の内面にあるものを描くべきである」はロマン主義を象徴する言葉ですが、確かに下の作品などには男のロマンを感じます。

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しかし単なる心象画や宗教画にはない彼の強烈な大自然に対する畏怖と孤独感は、同時代のロマン主義にも後の印象派にも見られないもので、そこに妙に惹かれてしまうのでした。

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これは彼の「ヴァッツマン」を模写しようとして途中から適当になってしまったもの。。

『ターナー 風景の詩』

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4月から新宿の損保ジャパン日本興亜美術館で開催されている「ターナー 風景の詩」。ずっと観に行きたかったのですが、春以降想定外に忙しくなりこんな時期になってしまいました。2週間前には天皇陛下も来ていたそうです。

ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner 1775-1851)、イギリスを代表する画家であると同時に、風景画家最高峰の巨匠です。当然ながら私にとっても最も好きな画家の一人。本展では国内外から集められた彼の初期から晩年に渡る約120作品が4つの章に分けて展示されていました。その中から特に気に入った作品を選んでみます。

第1章 地誌的風景画
① 「マームズベリー修道院」 1792 水彩
17歳の頃の作品ですが、既に完成されたその圧倒的な画力と構成力にたまげました。まぁ15歳にしてロイヤルアカデミーデビューしていれば当然なのでしょう。

② 「フォントヒル・アベイの東景、真昼」 1800 水彩 
本展の扉絵にもなった代表作「ソマーヒル」の隣に展示されていましたが、私の目当てはこっち。近景から遠景までの奥行きが見事でした。

③ 「ストーンヘンジ、ウィルトシャー」 1827 水彩
これも元々知っていた作品ですが、雷に打たれた羊や羊飼いが手前に倒れていたとは知りませんでした。


第2章 海景-海洋国家に生きて
④ 「嵐の近づく海景」1803 油彩
ターナーと言えば海景画。やっぱりどれも帆船の美しさと荒波のリアルさは見ものです。

⑤ 「プリマス海峡の入口のミューストーン、デヴォンシャー」1816 版画
エッチングやメゾティントなどの銅版画も多く、小さなモノクロ作品でも見応えがありました。


第3章 イタリア-古代への憧れ
⑥ 「風景-タンバリンを持つ女」1844 油彩
この頃の歴史画にはそれほど興味はなかったのですが、この作品では光の中に溶けていくような晩年の作風がよく表れていました。


第4章 山岳-新たな景観美をさがして
⑦ 「スノードン山、残照」 1798 水彩
個人的に最も楽しみにしていたのがこの章。ウェールズの雄大な山岳風景に観入りました。

⑧ 「サン・ゴダール山の峠、悪魔の橋の中央からの眺め、スイス」 1804 水彩
アルプス越えをした際の渓谷。左右に垂直に切り立った迫力のある構図は当時相当斬新だったと思います。


今回は代表作はあまりない代わりに、それほど知られていない作品に沢山触れることができ、彼が長いキャリアの中で様々な技巧や画風を駆使していたことが良く分かりました。彼は生涯を通じてイギリスをはじめヨーロッパ各地を旅して回り、30,000点もの作品を残したそうですが、きっと彼の各現場でのスケッチ力や水彩具がこうした優れた風景画を生み出したのでしょう。やっぱり水彩画はいいですね。



こちらは2014年に公開されたリアル過ぎる晩年のターナー。

Def Leppard Hysteria Tour

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Def Leppardの「Hysteria」再現ツアーでの来日が決定しました。このツアーはかなり以前から噂されていて、ずっと気になっていました。発表を受けて急いで先行で確保済み。10月24日(水)@日本武道館です。

改めて言う必要もないですが「Hysteria」は1987年にリリースされた名盤で、彼らの4枚目。全世界で売れた数は1500万枚と思っていましたが、その後も売れ続けていたようで、今や3000万枚に達したとのこと。HR/HMでは他に類を見ないモンスターヒットですね。

私も初めて聴いたというのもあり大好きなアルバム。成功は批判も呼ぶものではありますが、この完成度の高さはやっぱり否定し難いでしょう。「Hysteria」と同じくらい81年の2nd「High 'n' Dry」も好きなのですが、こっちの再現はないだろうな。
...

那須岳登山

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せっかく栃木北部に行ったなら、せめて那須岳には登りたいと単独行で行って来ました。

那須岳とは茶臼岳(1915m)、朝日岳(1896m)、三本槍岳(1917m)といった連山の総称で、日本百名山にもなっています。しかし登りは那須ロープウェイで茶臼岳の山頂直下まで上がることが可能なので、軽く茶臼を登った後で、できれば朝日岳まで行こうかと考えていました。

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しかし当日ロープウェイ山麓駅に着くと、強風のためロープウェイは運行休止。仕方なく県営駐車場の登山口から登り始めました。

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森林帯を抜けると展望が広がりますが、ここから一気に冷たい強風にさらされました。あまりの強さに立って歩くのもやっとです。(画像では分かりませんが)

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やっとの思いで峰の茶屋跡避難小屋(1720m)に辿り着きました。尾根上を雲が凄い勢いで乗り越えていきます。小屋内には多くの人が避難していました。

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迷いましたが、せっかくなので茶臼岳を目指しました。突風が来る度に何度もしゃがみ込みながら少しずつ登ります。向かい風に対しては前傾姿勢である程度踏ん張れますが、追い風には踏ん張れません。一度吹き飛ばされて、少し斜面を転がりました。過去にこれで何人も死者が出たというのも納得。

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どうにかお釜口に到着。ゴーという風の轟音以外何も聞こえません。岩にしがみつきながら這うようにして山頂を目指します。

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ようやく釜の向こうに山頂が見えましたが、写真を撮るのもやっとです。そしてこの後何故か充分にあったはずのスマホの電池も急に消えました。もし自分に何かあっても周りには誰もいません。諦めるのも勇気かと無事に帰ることを優先し、ここで断念し下山しました。スマホは何故か下山後に復活したので、きっと何かが帰れと促したのでしょう。

普段は雄大な景観が望める那須岳ですが、尾根は風の通り道になっており、一度荒れると人を阻む神の領域となります。下界は晴れ渡っていただけに、それは全くの別世界で、今回山の怖さが身に染みて良く分かりました。また来年天候の良い日に再挑戦しようと思います。

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日光探訪

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身体の悪い母親の地元が栃木北部なのですが、先日50年振りの同窓会に出たい言うので連れて行く途中に少しだけ日光に寄って来ました。

私は日光に行くのは小学校の修学旅行以来。しかし母親は足が悪く東照宮内など歩くことは出来ないので、車で自然景観だけを見せて回りました。

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明智平
絶景の見えるロープウェイがあるということで行ってみましたが閑散。少し霧もかかっており男体山も見えず。

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華厳の滝
日本三大名瀑は、やはりスゴい迫力。新緑やミツバツツジとのコントラストも綺麗でした。

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男体山
中禅寺湖の湖畔で眺めていたら、一瞬だけ雲が晴れて山頂が見えました。今回は時間がありませんでしたが、いずれ登りたいものです。

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日光白根山
戦場ヶ原は修学旅行で歩いた記憶があります。その戦場ヶ原から夕陽の沈む白根山が見えました。あの山もいずれ。

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湯滝
奥日光の湯ノ湖から流れる滝。間近で見られる分これも迫力。あたりは温泉の匂いが立ち込めていました。

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湯ノ湖
静かな湖畔でハイキングをしたら気持ち良さそう。湯元温泉もあるし奥日光は良いですね。


それにしても日光の閑散ぶりは気になりました。翌日に行った那須と比べると余計に。世界遺産以外にも観光資源は沢山あるのになんでだろう。自然を守るには良いかもしれないけど。

Neurosis 「Through Silver In Blood」 (1996)

スルー・シルバー・イン・ブラッド
ニューロシス
HOWLING BULL Entertainmen
2000-05-03


1. Through Silver in Blood 
2. Rehumanize 
3. Eye 
4. Purify
5. Locust Star
6. Strength of Fates 
7. Become the Ocean 
8. Aeon 
9. Enclosure in Flame

今月は流れでポストハードコアを特集していますが、最後はやっぱりこのバンドNeurosisで締めたいと思います。

デビューは1987年。初期は荒削りなハードコアパンクでしたが、1992年の3rd「Souls At Zero」以降サウンドは大きく深化を遂げていきます。ギターリフは重くメタリックになり、キーボード/サンプラーやヴィジュアル担当のメンバーも加わります。さらには弦楽器や管楽器、バグパイプなども毎回参加するようになり、サウンドは破格のスケールアップをしました。

90年代の彼らは作品を重ねる毎に常に前作を上回る作品を作り続けていただけに1枚を選ぶのは難しいですが、最も知名度があり入門的なのは1999年の6thの「Times Of Grace」でしょう。名エンジニアSteve Albiniとタッグを組み始めたのもここからで、別動隊Tribes Of Neurotのアンビエント音楽作品とのコラボレーションという離れ技まで披露していました。

しかし今回はあえて彼らの最も暗黒な世界をご紹介したいと思います。1996年の5th「Through Silver In Blood」。先週のIsisの音楽には一条の光が差していましたが、ここには一切の光はなく、ひたすら死と向き合うような暗闇と絶望の世界が広がっています。

不穏な音とJason Roederらの呪術的なトライバルリズムで導かれるM1では、やがてScott Kelly (G)、Steve Von Till (G)、Dave Edwardson (B)の3人が巨壁のようなリフを響かせながら、代わる代わるボーカルを取り咆哮する。12分もの間じわじわと展開していく中で激しい情念を叩きつけられ続け、神経を病むこと請け合いです。

またM4とM8を聴けば彼らの音楽がただダーク&ヘヴィなだけではないことが分かるでしょう。嵐の前のように静かなアルペジオやピアノで幕を開け、続く暴風雨のような轟音に晒され、最後には全く想像しなかったような壮大なスケールのクライマックスが待っています。それはまるで人類の力も及ぶべくもない大自然の恐怖に対峙したかのような感覚です。

闇の帝王、もしくはヘヴィミュージック界の裏ボス。何かと大仰な表現になってしまいがちな彼らの音楽ですが、きっと聴けば分かってもらえるのではないかと思います。ただ決して万人にお勧めできる音楽ではないので、精神力と免疫のある人に限ります。あと危険ですので老人・子供には聴かせないようにして下さい。


Isis 「Oceanic」 (2002)

オーシャニック
アイシス
HOWLING BULL Entertainmen
2002-09-13


1. The Beginning And The End
2. The Other
3. False Light
4. Carry
5. Maritime
6. Weight
7. From Sinking
8. Hym 

先週のCave Inの所属するボストンのHydraheadは、ポストハードコアを語る上で重要なレーベルです。このHydraheadのオーナーがAaron Turnerであり、彼が率いたバンドが今週ご紹介するIsisです。

Isisの結成は1997年。1stフルアルバム「Celestial」とその後リリースされたミニアルバム「Sgnl>05」では整合感のあるスラッジコアという感じでした。勢いを重視するハードコアの中で、スラッジコアとはミドルテンポでヘヴィなリフを塗り重ねていくのが特徴で、このジャンルの先達であるNeurosisの影響が強く出ていました。

しかし2ndである今作ではそこから更に進化しています。最大の変化は動と静のコントラスト。動パートでのAaronの咆哮とともに激しいスラッジの一方で、各曲の冒頭や中間部ではポストロック的なクリーンでメロディアスな静パートが配されています。これにより動と静の両パートがそれぞれをより効果的に引き立てることに成功しています。イメージはタイトルやジャケットに現れているような暗い大海。ゆっくりとたゆたう海原が、次の瞬間に激しい荒波となりうねり出す。そのドラマティックなスケールの大きさが圧倒的です。

唯一難点を言うなら、ドラムの音でしょうか。これはプロデュースのせいなのかもしれませんが、重いヘヴィパートでもドラムの音が妙に軽いのが少し気になりました。

何度か来日もしましたが、結局見に行けないまま、2010年に解散してしまいました。再結成しないかな。

 

Cave In 「White Silence」 (2011)

White Silence
Cave in
Hydrahead Records
2011-05-24


1. White Silence
2. Serpents
3. Sing My Loves
4. Vicious Circles
5. Centered
6. Summit Fever
7. Heartbreaks, Earthquakes
8. Iron Decibels
9. Reanimation

今年の3月28日にCave Inのベーシスト・ボーカルCaleb Scofieldが交通事故のため亡くなりました。享年39歳でした。

Cave Inは1995年にボストンでSteve Brodskyを中心に結成。この時彼らはまだ高校生でした。98年にインディーのHydraheadから「Until Your Heart Stops」でデビュー。彼らの独創的なカオティックハードコアはシーンで注目を集めます。しかしSteveが喉を痛めたと同時に、本来持っていたメロディセンスも開花。2000年の「Jupiter」では全く異なるスペーシーロックを提示し新たなファンを獲得します。2003年にはRCAから「Antenna」でメジャーデビューするものの、音楽性にまで色々注文をつけられることに嫌気が差し、以降はまた古巣に戻りハードコアに原点回帰をしています。

この「White Silence」は遺作となった2011年の最新作ですが、ここではそれまでの様々な音楽性を融合した集大成となっています。前半はカオティックやオールドスクールなハードコアチューンで攻め立てる一方で、後半はスペーシーやアコースティックで聞かせます。これが散漫な印象を与えずに全てがCave In色となっているのは、それまでのキャリアの賜物でしょう。

私は2006年の来日時にクアトロ公演を観に行きましたが、高度なテクニックと勢いを見せつける熱いライブでした。ステージ中央のSteveがメロウなボーカルも聞かせる一方で、左手に立つCalebは正にザ・ハードコア。ムキムキの体躯、腕にビッシリの墨、迫力のある咆哮と重低音ベースが今でも印象に残っています。きっと彼なしでのバンド存続は難しいのではないでしょうか。

RIP

  
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